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2008年9月15日

カシミール問題(政治9)

今回は政治の最終回として、カシミール問題を取り上げておきます。
日本の本州とほぼ同じ広さを持つカシミールは、イギリスの植民地時代のインドにおいては藩王国を形成していました。藩王はヒンドゥー教徒でしたが、民衆の約3/5はムスリムでした。この藩王と民衆の宗教上の食い違いが、現在に至るカシミール問題の出発点となりました。

 
印パ両国が1947年に分離独立した際、カシミール藩王は最終的にインドへの加入を選択しました。しかしムスリム多住地域を基礎にして国家を建設しようとしていたパキスタンはこの選択を認めず、1948年に第一次印パ戦争が勃発することとなりました。翌1949年1月に国連決議に基づいて停戦が実現し、1949年7月に画定された停戦ラインにより、カシミールは印パ両国によって暫定的に分割所有されることになりました。このうちインド側カシミールは、ジャムカシミール(JK)州としてインド連邦の一州を構成しています。

 
その後1965年9月6日に第二次印パ戦争が始まりましたが、17日で終息し、軍事的には特に勝者も敗者もない戦争でした。

第三次印パ戦争は1971年に、東パキスタン内戦へのインドの武力介入と、これに続くパキスタンのインド空軍基地爆撃によって開始されました。この戦争はバングラデシュ独立戦争とも言われますが、事実上はカシミール問題をめぐる印パ戦争と言えました。そしてこの戦争ではインドの圧勝に終わりました。

 
第三次印パ戦争の終戦処理は、シムラ協定と呼ばれる印パ協定によって行われました。この協定では、印パ間の紛争に第三者を介入させるべきでないというインドの主張に拠りつつ、国連の関与する余地も残し、パキスタン側の主張も盛り込んだものとなりました。
シムラ協定は、印パ両国で概ね歓迎・支持されました。ただシムラ協定には停戦ラインについての明確な規定はなく、その後の二国間会議において、1972年12月に新たに管理ラインが誕生することとなりました。このことで分割されたカシミールが事実上固定化されました。

 
パキスタンの対印基本政策は、独立後一貫してインドに対して「均衡」を保つことでした。1977年にブットを追放してパキスタンの大統領になったジアがインドとの均衡を保つためにとった政策は、ソ連によるアフガニスタン侵攻を利用し、アメリカの対パ軍事・経済援助を通じた対印バランスの回復と、インド国内のカシミール分離主義者に対する支援でした。

 
そうした背景もあり、インド側ジャム・カシミール州でカシミール分離運動のグループが活動を本格化させたのは、1983年ごろからでした。最近2008年7月19日にも、インド北部ジャム・カシミール州のスリナガル郊外で、インド兵が乗ったバスを狙った地雷の爆発があり、インド軍の兵士12人が死亡、約20人が負傷するテロが発生しました。このテロでは、カシミールの分離独立を求めるイスラム過激派ヒズブル・ムジャヒディンが犯行声明をだしています。インド側代表は2008年7月の包括対話後の記者会見でも「テロの背後にパキスタンがいる」と非難し、対話でもパキスタン側にテロ対策強化を求めました。一方のパキスタン側代表は、会見でテロへの関与を否定するということがありました。

 

 

カシミール問題は印パ間の最大の外交問題です。しかし印パそれぞれのカシミールは、過去半世紀の間に、両国の政治・経済体制に組み込まれてしまっています。
現状でカシミール問題の最も現実的な解決は、現状維持、つまり現在の管理ラインを国教とすることであり、これは両国指導者の本音でもあります。カシミールの現状維持はアメリカにとっても、南アジアにおける核開発競争をやめさせ、核拡散防止上の観点からも、最も望ましいことです。

 
印パ両国にとって、またアメリカや国際社会の利害から見ても、カシミール問題はいずれ現状維持の方向で決着が図られることになるのではないでしょうか。
次回はインドの社会・文化で、インドの芸術について述べます。

文=土肥克彦(有限会社アイジェイシー

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインド・ダスツール社と協業、オフショア・ソフト開発に携わる。
2004年有限会社アイジェイシーを設立、ダスツール社と提携しながら、各種オフショア開発の受託やコンサルティング、ビジネス・サポート等のサービスで日印間のビジネスの架け橋として活躍している。
また、メールマガジン「インドの今を知る! 一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.130(2008年09月15日発行)」に掲載されたものです。

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