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社内外の人材を効果的に登用する「人材ベストミックス」

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人材派遣業大手のテンプスタッフでは1990年代から海外市場進出を開始した。94年に香港、96年アメリカ、98年にシンガポール、また、タイ、中国にも進出済み。中国では外国企業として初めて政府の認可を受け、追随を許さない成功を収めている。

 
そして、成長を続けるアジア各支店を統括する重要な戦略的位置にあるのがシンガポール。当地でアジア事業統括本部長として奮闘するのが荒屋隆氏だ。北京に長く駐在した経験を買われ、海外進出拡大を目指すテンプスタッフのアジア事業責任者となった。

 
「日本の人材活用において、いわゆる三種の神器と言われてきた組合、終身雇用制度、年功序列制度が今や意味を持たない。優秀なスタッフを確保しつつ、コスト削減につなげるには社内外の人材を活用する『人材ベストミックス』を実現する体制作りが重要」と荒屋氏は熱く語る。『人材ベストミックス』とは荒屋氏が創出、命名したコンセプトだけに力が入る。

 
「派遣社員が増加し、委託事業の比率が高まるボーダーレスな競争社会の中で、企業が業績を伸ばすには人材ベストミックスをどれだけ活用できるかにかかっていると言える」

 
派遣業が主な日本とは違って、アジア市場では人材紹介が事業の中核となっている。海外進出した日系企業が競争を勝ち抜いていくには、コストが比較的低く済むローカルや現地採用日本人の活用がカギだと荒屋氏は言う。 「空前の低成長時代に突入し、雇用の空洞化が進む中で、上手に優秀な人材を確保し、活用することが何より重要だ。今後は更に駐在員と現地採用者の人材ベストミックスが進む」

 
ムダを省きコスト削減を行う一方、ローカルであれ、現地採用であれ、優秀な人には能力に見合った報酬で優遇する。それが今後の企業のあり方だという。
荒屋氏は「日本の派遣業界も厳しい状況にある」というが、人材派遣・人材紹介業の市場規模は年々増大しており、テンプスタッフの売上も伸びている。人件費を抑えながら、優秀な人材を確保したい企業と、実力に見合った報酬を獲得したい人材の双方のニーズを満たす、まさに時代に即した業態だからだろう。

 
例えば日本では新卒者が正社員で就職することが困難になってきている。テンプスタッフでは、就職先を確保できなかった若年層向けに、仮採用派遣制度とも呼べる「紹介予定派遣」を実施しており、その利用者は増加の一途だ。

 
管理職レベルの人材も面接後即正社員採用ではなく、一定の仮採用期間を設け、実力を見極めるため、テンプスタッフの「トライアル雇用紹介」という制度を利用する企業が増えた。企業がより真剣に採用を考えるようになってきた証拠であり、また本格的な実力主義の到来とも読み取れる。

 
日本の高度成長期では「減点主義」が主流だったが、今、業績を伸ばしている企業には、失敗を恐れない懐の深さがあることが多い。社員がより良い結果を求めてリスクをとることを躊躇するような企業の未来は明るくない、と荒屋氏は言う。
「できない理由を百挙げる人より、できる方法をひとつ挙げる人は絶対伸びるね」
冒険や挑戦を認めない「守り」だけの企業、伝統や歴史にこだわる古い体質の会社は現代から取り残されていくと荒屋氏は考える。

 
一方、日本でも同業他社への転職、高齢でのヘッドハンティングが珍しくなくなってきた。雇用市場でもボーダーレス化が進んでおり、既得権益にしがみついていれば取り残されかねない激動の時代なのである。「維新が必要、日本を改革しないと。」

 
海外で人材紹介・派遣業として営業するには、日本の厚生労働省の認可がなければならないというのは意外だったが、インタビュー中、常に荒屋氏の「競争に勝つ」という意気込みがひしひしと伝わってくる。端的には同業他社に対してであるが、一方では日本がさらされている激しい国際競争を意味している。そのためアジア、ひいては海外市場に疎い本社との戦いにも神経を使うという。読者の中でも共感を覚える人が多いのではないだろうか。
篠原社長率いるテンプスタッフでは、近々株式上場の噂も聞こえてくる。その可能性を荒屋氏にきいたが、「ノーコメント」とかわされてしまった。ボーダーレス時代にますます重要性を増す業種であり、株式上場も含め、テンプスタッフの今後の動向に注目である。