2006年11月6日
Q.シンガポールにもたくさん流通している日本の音楽CD。中には日本よりも安価で販売されている音楽CDもありますね。果たしてこれは俗に言う海賊版なのか? シンガポールと日本との間の音楽CDの価格差に目をつけたAさんとシンガポール人弁護士の質問と答えです。
音楽CDの著作権
Aさん
時々シンガポールのCDショップで、日本の音楽CDが東京で買うよりも、安く販売されていることを見かけるのですよね。日本の音楽CDなのにシンガポールで買う方が安いなんて、もしかしてこれは俗に言う海賊版なのでしょうか?
弁護士
著作権者の許諾を得ていない無断コピー、いわゆる海賊版か否かを判断する際、確かに、価格は重要な要素となります。しかし、それだけでは判断できません。為替の問題もさることながら、音楽CDを扱うレコード会社などは、製造コスト、その国の経済事情や、物価相場等を考慮し、それぞれの国において価格戦略を立てています。そのため正式なライセンスの下シンガポールで販売される音楽CDの販売価格が日本での販売価格より安くなることが生じうるのです。海賊版か否か、購入者の立場からは、価格他、販売形態、パッケージ、印刷の状態等を総合して判断しなければなりません。
Aさん
たしかに、中には印刷が粗悪だったりして見るからに海賊版と思える音楽CDもありますよね。では、そのような俗に言う海賊版は、たとえば持っているだけなら問題ないのでしょうか。
弁護士
シンガポールの著作権法上、海賊版と知りながら、または合理的に知るべき状態で、販売や賃貸する目的、販売や賃貸のために提供または陳列する目的などを持ってその海賊版を所持すること自体、罰則が規定されています。具体的には、各海賊版ごとに1万ドル以下の罰金か、全体に対して10万ドル以下の罰金のいずれか低い方、または5年以下の禁固刑、場合によっては罰金刑と禁固刑が併せて科されることがあります。また、同法の下、5部またはそれ以上の海賊版を所持していた場合、販売目的の所持であること等が法律上推定されると規定されていますし、そうでなくても、裁判上、諸般の事情を考慮して、海賊版の所持が販売目的であると認定されることも考えられます。持っているだけなら一概に安心だとは言えないわけですね。
Aさん
それでは、この海賊版の音楽CDをシンガポールで売らずに、日本に持ち帰って売る場合は、如何でしょうか?
弁護士
日本の著作権法では、外国で作成された海賊版を日本国内において販売や配布するなどの目的をもって「輸入」することは著作権等の侵害とみなされ、罰則も定められています。具体的には、5年以下の懲役または500万円以下の罰金、場合によってはこの双方があわせて科される場合もあります。
Aさん
そうすると、海賊版でない日本の音楽CDをシンガポールで安く仕入れて、日本に持ち帰って売る、これで一儲けできそうですね。
弁護士
事情はそう簡単ではありません。日本の著作権法の下、かかる手法について違法となる場合があるのです。すなわち、同法の下、シンガポールで販売されている音楽CDが、日本国内での流通を目的とする音楽CDと同一の音楽CDであり、そして、もっぱら海外で流通することを目的とするものである場合、それを知りつつそのシンガポールで購入した音楽CDを日本に輸入する行為は、著作権者等の見込まれる利益が不当に害される場合、著作権等を侵害する行為とみなすとされているのです。同規定は、日本国内での同一の音楽CDの発売後4年間適用されるものとされています。シンガポールで購入した音楽CDのジャケットに「日本国内での販売を禁止します。」などと書いてあったら要注意というわけですね。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.085(2006年11月06日発行)」に掲載されたものです。
本記事はは一般情報を提供するための資料にすぎず具体的な法的助言を与えるものではありません。個別事例での結論については弁護士の助言を得ることを前提としており、本情報のみに依拠しても一切の責任を負いません。