残念ながら、現行のシンガポール著作権法上は、このような行為は少なくとも理論上は著作権侵害となる可能性があります。
まず、シンガポール、日本、米国を含めた多くの国において、その国の著作権法で保護される著作物をブログ等に著作権者の許諾なくアップすることは、複製権侵害として、原則、著作権侵害となります。ただし、大抵の国においては、複製権の侵害についての制限規定を設けており、制限規定に該当する場合には、著作権侵害となることはありません。
この制限規定の定め方についてですが、国によって若干異なります。
一つの規定の仕方は、日本のように制限規定を個別の事由ごとに列挙するもので、例えば私的使用のための複製、教育機関における複製、視覚障害者等のための複製等々が挙げられています(著作権法第30条以下)。よって、この個別の制限規定に該当しない複製行為は、少なくとも理論上は著作権侵害となります。本件のような事案は、長い間これに該当する制限規定が著作権法に存在していなかったため、日本では理論上は著作権侵害になるという事態がずっと続いてきており、悪意の無い場合にまで著作権侵害となるのはおかしいと、専門家からは長く批判されてきました。もっとも、この点につき、昨年6月の著作権法改正により、新たな制限規定が追加されたため(同法第30条の2)、現在ではやっと本件のような事案は著作権侵害ではなくなりました。
他の規定の仕方は、個別の制限規定の他に、フェア・ユースという一般的な制限規定を設ける方法です。これは例えば米国が採用している方法で、ある複製行為が個別の制限規定に列挙されていなかったとしても、複製をする目的、複製された部分の分量等を考慮してフェア・ユースと考えられる場合には、著作権侵害としません(米国著作権法107条)。上記事案の場合、これに該当する個別の制限規定は米国法上存在しないようですが、商業目的ではなく私的な目的ですし、アニメ・キャラは大きく写っていてもあくまで背景に写っていただけですので、フェア・ユースによって著作権侵害とならない可能性がかなりあると考えられます。
それではシンガポール著作権法がこれらのどちらの定め方をしているかですが、まず、裁判手続のための複製、教育機関での使用のための複製等々、個別の制限規定が存在する他に、フェア・トレーディングという規定(同法35条以下)が存在します。このフェア・トレーディング、名前だけ見るとフェア・ユースに近いように見えますが、実際の中身は一般的な制限規定ではなく、批判や事実の報道の目的といった特定の場合に著作権侵害を制限するもので、個別の制限規定の一種と考えられます。そこで、次にこれらの個別の制限規定を見ますと、現行法上、本件のような事案を正面から定めた制限規定は存在しません。
従って、シンガポール著作権法上は、かつての日本同様、少なくとも理論上は本件行為は著作権侵害となってしまいます。
ただし、理論上は著作権侵害に該当するとしても、実際に法的責任を問われるか否かは別問題ですので、過度に心配する必要はないと思われます。本件のような場合、日本においては少なくとも形式上はずっと著作権侵害になるとされてきていましたが、悪意の無い一般の人が著作権者から実際に訴えられたというようなケースは報告されていないようです。また、法律上明文はありませんが、シンガポール法上は黙示の許諾という理論もあり、著作権者が一般的に使用を許諾していると考えられるような場合には、許諾があったものとして著作権侵害ではないと裁判所が判断する可能性もあります。
ご心配に思われる方は、一度シンガポール法の弁護士にご相談下さい。