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法律相談

2013年8月5日

Q.来年(2014年)にシンガポールの雇用法が大きく改正される予定と聞きました。改正のスケジュールや内容、企業側がとるべき対応について教えてください。

シンガポール雇用法の改正について

2012年4月、シンガポール人材開発省(Ministry of Manpower)は、2008年以来となるシンガポール雇用法(Employment Act)の大幅な見直しに着手することを発表しました。見直しは2段階に分かれて行われることとなり、第一段階(Phase I)では、雇用者側の利益にも配慮しつつ、労働者の保護をより充実させるべく、雇用関係に関する一定のスタンダードの構築が、第二段階(Phase II)では、業務委託等の新しい労働形態における労働者の保護と労使間の紛争処理を迅速化する仕組みがそれぞれ検討されることになりました。その後、Phase Iについて、2012年11月から2013年3月にかけて一般からの意見聴取手続が行われ、2013年4月、人材開発省からその結果(寄せられた意見とこれに対する人材開発省の考え方)が発表されました。以下、主なものについて説明します。

 

まず、現在の雇用法では、労働時間の制限や超過勤務手当(いわゆる残業代)等について規定している雇用法第4章(Part IV)の規定は、Workmen(いわゆる肉体労働者等)については給与月額S$4,500まで、Non-Workmen(例えば、オフィスでの事務職等)については給与月額S$2,000までの者にだけ適用されます。しかしながら、近年の賃金の上昇傾向を受け、Non-Workmenについては上記金額を月額S$2,500までに引き上げることで、雇用法第4章の適用範囲を拡大することにしました。例えば、給与月額がS$2,200の事務職の労働者は、現行法では雇用法第4章が適用されず、雇用契約に定めのない限り超過勤務手当の支払を受ける権利を有していませんでしたが、改正法の下では通常の給与の1.5倍で時給換算した超過勤務手当を受け取ることができるようになります。

 

また、現行法上、管理職等(Professionals, Managers and Executivesの頭文字から「PME」と呼ばれます)については、一般的に雇用法が適用されず、給与月額S$4,500以下の一部のPMEに限定して雇用法第2条第2項に列挙された条項(*1)だけが適用されます。しかしながら、労働者保護の観点から、PMEについても、不当解雇からの保護や有給疾病休暇の付与、公休日勤務の際の代休の付与といった、雇用法第2条第2項に列挙された事項以外の雇用法の規定を一般的に適用することとしました。

 

他方で、雇用者側の事情にも配慮がみられます。例えば、前述のとおり、給与月額S$2,000からS$2,500の間の労働者については、超過勤務手当の支払を受ける権利が新たに認められることになった一方で、具体的な超過勤務手当の金額の計算に際しては、給与月額がS$2,250を上回る場合であっても、これを便宜上S$2,250として取り扱うこととし(つまり、給与月額がS$2,400の場合でも、超過勤務手当の基礎となる時給の換算時は、月額給与をS$2,250として計算します)、超過勤務手当の金額を抑制する仕組みを設けました。

 

また、前述したPMEに対する雇用法の適用拡大のうち、不当解雇からの保護については、保護の要件として1年間以上の勤務期間があることを要求することとし、PMEによる権利行使に一定の制限を設けたり、PMEに対する公休日勤務の際の代休の付与について、労使の合意がない場合には、代休は1日ではなく半日でよいとするなど、雇用者側の利益を一定程度図ることにしています。

 

今後のスケジュールですが、Phase Iにかかる改正は2013年後半に国会に具体的な法案が提出され、2014年前半に施行される見込みです。また、Phase IIにかかる見直しは2013年後半に開始される予定です。雇用者側にある企業としては、実際の施行時期や移行措置の有無を確認しつつ、現行の自社の雇用制度や雇用契約書が改正法に合致してない部分について変更の要否を検討することが必要です(*2)

 

(*1)給与の支払期間や支払時期、計算方法の定めの他、労使間紛争の解決方法等が含まれます。

 

(*2)本稿は作成時点で入手可能な人材開発省の発表した情報に基づくものであり、実際に成立する改正法は本稿の内容と異なる場合がありますので、ご留意ください。

取材協力=Kelvin Chia Partnership 岡本直己

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.239(2013年08月05日発行)」に掲載されたものです。

本記事は、一般情報を提供するための資料にすぎず具体的な法的助言を与えるものではありません。個別事例での結論については弁護士の助言を得ることを前提としており、本情報のみに依拠しても一切の責任を負いません。

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