2013年10月7日
Q.シンガポールで産業デザインを保護するためには、意匠登録をする必要がありますか?
産業デザインに対するシンガポール著作権法のアプローチ
答えは「イエス」です。日本でも、シンガポールでも絵画、彫刻などの美術作品は著作権法で保護し、実用品は意匠法(シンガポール登録意匠法)で保護するという一応の棲み分けがされています。著作権が登録手続なしに発生するのに対し、意匠権は登録手続をしてはじめて発生するという点も違いはありません。もっとも、実際は美術作品なのか実用品なのか微妙なケースもあります。たとえば、仮に現代美術家の村上隆が新作キャラクターを含んだ絵画作品を発表したとしましょう。この絵画自体が著作物であることを疑う人はいないでしょう。しかし、絵画に描かれたキャラクターの形をした石鹸をつくって量産したら、これを彫刻として扱うのか、石鹸のデザインとして扱うのか区別できるでしょうか。
キャラクター型石鹸の例を考えると、日本では登録手続をすれば意匠法で保護されます。また、著作権法でも保護される可能性があります。美術を実用品に応用したもの、いわゆる「応用美術の保護」と呼ばれる問題です。日本の裁判所は「純粋美術と同視できるか」という基準で実用品に著作権を認めてもよいかを判断しています。純粋美術、つまり、彫刻と同視できると判断すれば、石鹸にも著作権法による保護を認めます。
他方、シンガポールでは大きな違いがあります。著作権法と登録意匠法の保護が重複する分野について、登録意匠法に基づいて登録手続をしないと著作権法では一切保護しないという法制を採用しているのです。
日本では著作権法でどこまで実用品を保護してよいかは大論争になります。著作権法で産業デザインを広く保護してしまうと、費用をかけて意匠登録をする人がいなくなってしまう。一方で、なぜ著作権法で一部の産業デザインを保護するかというと、美術作品としてつくられれば著作権法で保護されるのに、それが実用目的でつくられたり、実用品に応用されたりした途端に著作物でなくなるのはおかしいとも思えるためです。しかし、シンガポールはすぱっと「登録意匠法で登録しないとだめ」という線を引いているわけで、日本法と比べるとかなり思い切った特徴的な法制といえるでしょう。
ビジネスのうえでも、著作権法で保護されると思っていて意匠登録をしていなかったため、産業デザインが一切保護されないということがありえますので、注意が必要です。
もう少し具体的にご説明しましょう。大きく分けると次の3パターンが考えられます。対応デザインが、①意匠登録されている場合、②意匠登録可能であるにもかかわらず、登録されていない場合。③美術作品が物品に利用されておらず、そもそも意匠登録できない場合。①の場合、シンガポール著作権法による保護はありません(シンガポール著作権法74条(1))。②の場合、対応デザインが50以上の物品に産業上利用され、製品が実際に販売されたり、販売の申し出がされたりしたときには著作権法の保護はありません(同74条(2)、著作権規則12条)。③の場合、美術作品が実用品に対し50以上立体的に複製されて産業上利用されたときには、著作権法による保護はなくなります(シンガポール著作権法70条(1)、同70条(2)(a))。キャラクター型石鹸の例では、量産されていれば、上記②と③にあたる 可能性が高いと思われます。つまり、意匠登録をしていないと保護されないということになるでしょう。
意匠登録をするためには、産業デザインに新規性がないといけません(登録意匠法5条(1))。新規性が認められるためには、シンガポールのみならず、外国においても公になっていないことが必要です(同5条(2)(b))。意匠登録には、通常は出願から登録まで2~3ヵ月かかります。産業デザインを効果的に保護するためには、シンガポールの特徴的な法制を押さえた上で知財戦略を練ることが大切です。
取材協力=Kelvin Chia Partnership 木村剛大
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.243(2013年10月07日発行)」に掲載されたものです。
本記事は、一般情報を提供するための資料にすぎず具体的な法的助言を与えるものではありません。個別事例での結論については弁護士の助言を得ることを前提としており、本情報のみに依拠しても一切の責任を負いません。