AsiaX

前任者Xが、製品Aの入札にあたり、競合他社と裏で入札価格の取り決めを行ってきたことがわかりました。どうしたらよいでしょう。

迅速に、リニエンシー(leniency)の申請を行い、制裁金の減免を目指すことが考えられます。

 

競争法(Competition Act)34条 (1)項は、目的または効果において、シンガポール内における競争を阻害、制限、歪曲する合意、共同行為、協定を原則として禁止しております。質問のような価格を固定する合意等は、その典型となります(同条2項)。

 

34条違反に対しては、シンガポール競争委員会(Competition Committee of Singapore (CCS))は、排除措置命令、再発防止措置命令、賠償命令、損害拡大防止命令等を発することができるほか、故意または過失による違反者に対し、違反行為の行われた各年につき、シンガポールにおける売上高の10%以下の制裁金を、最高3年分まで科すことができます(69条、70条)。したがいまして、会社の財務に与える影響は小さくはありません。

 

「カルテル事件の情報を提供した事業体に対する制裁措置減免についてのガイドライン(2009年)」(CCS Guidelines on Lenient Treatment for Undertakings Coming Forward with Information on Cartel Activity Cases 2009)は、一定の要件を満たした場合に制裁金を減免する、リニエンシー制度を設けております。もっとも、カルテル行為の発起人や、相手にカルテル行為に加わるよう強要した者は、制裁金の減免を受けられません(ガイドライン2.2項、3.1項、4.1項)。

 

なお、CCSによる調査開始後の申請や先着2位以下の申請の場合には、申請の時期、CCSが既に有していた情報、申請により提供された情報価値を勘案して、CCSの裁量により、減額割合が変わります(3項、4項)。したがいまして、調査が終了するまで、より価値の高い情報を提供するための努力が必要となります。概要は以下の表のとおりです。

 

報告時期 報告順位 制裁金減免割合
CCSによる調査開始前
(*)
1位 全額免除(100%)する(2.2項)
2位以下 CCSの裁量により最高50%まで減額できる(4.1項)
CCSによる調査開始後 1位 CCSの裁量により最高100%まで減額できる(3.1項)

 

申請後は、CCSの指示による場合を除き、カルテル行為を継続してはなりません(2.2項)。また、当該行為に関する情報、書類、証拠は、すべて提出する必要があり、CCSの決定があるまで、全調査期間を通じてCCSに協力する必要があります(同項)。つまり、結果としてCCSの調査を妨げるような行動を取ることはできません。

 

さらに、調査協力をしている間に、市場を異にする他の製品についてもカルテルを行っていることが発覚することが往々にしてありますが、そのような場合には、当該別のカルテル行為の証拠を提出し、上記同様の要件を満たすことにより、当初の調査協力対象の件についての制裁金を更に減額することができます(リニエンシープラス、6項)。

 

なお、リニエンシー制度は、カルテルにより被害を受けた者に対する民事責任(法86条)や国外の競争当局により課される課徴金等まで減免するものではありません(ガイドライン9項)。CCSは、シンガポール国外の競争当局との情報交換、調査協力を行えますので(法88条およびガイドライン9項)、カルテルが複数国に渡る場合には、各当局へのリニエンシー申請にあたり、タイミングを図る必要がある場合もあります。カルテルが疑われる場合には、まずはシンガポール法弁護士に相談されるのがよいでしょう。

 

*さらに、CCSが、勧告を発行するに十分な情報を取得する前である必要があります。