シンガポールでは、環境公衆衛生法(Environmental Public Health Act)の下位規範である環境公衆衛生(食品衛生)規則(Environmental Public Health (Food Hygiene) Regulations)で、食品の保存方法から調理器具の衛生管理や包装方法に至るまで、日本では地方自治体がガイドラインレベルで定めるような細かい事項が規定されています。印刷部分が食品に触れるような包装をしてはいけない、ラップした際のホチキス止めはいけない、食品に触れる際は手袋をする等々です。
また、監督官庁である環境庁(National Environment Agency)の監督は厳しく、検査には点数制が採用されています。この制度では、検査の結果、公衆衛生を阻害する違反行為が認められた飲食店等には罰金が科されるほか、重い違反該当行為に対して4点、深刻な違反該当行為に対して6点が記録されます。12ヵ月以内に累積点数が12点に達したときは2週間の営業停止、違反行為から12ヵ月以内に再度12点に達したときは4週間の営業停止、更に12ヵ月以内に12点に達したときは営業許可取消しとされます。さらに、複数の個別飲食店等が入居する、いわゆるホーカーセンターやフードコート等については、全体を運営する者に対して別途処分基準があり、運営者が営業停止処分になった場合、中にある個別の店舗も営業を停止させられます。最後に点数が記録された時から12ヵ月を経過すると、記録された点数はリセットされます。
2014年3月31日までは、軽い違反にも、2点が記録されていましたが、4月1日より廃止されました。但し、この区分の罰金は廃止されておりません。もっともこの区分は、営業許可証の店頭不掲示や、椅子等の店舗外へのはみ出し等の事務的な違反を主に対象としていましたので、処分基準が緩和されたとはいえません。むしろ、これまで4点が配分されていた行為の多くが、6点配分とされましたので、かなり厳格になったといえます。
以上の点数制のほか、「飲食店および食品販売店の評点方式」(Grading System for Eating Establishments and Food Stalls)と称する制度が並行して存在します。よく店頭に掲げられているアルファベットの表示は、この制度に基づく表示です。同評点方式は、罰金や営業停止処分にまで至らない衛生状態についても表示することを可能とし、一般顧客が一見して分かりやすいように「A」から「D」までの成績をつけてこれを表示させることによって、各飲食店の公衆衛生規制遵守を促進するものです。検査評価項目は、上記点数制の検査項目と類似しています。検査の結果、85%以上の評価を受けた場合は「A」、70%から84%の評価を受けた場合は「B」、50%から69%の評価を受けた場合は「C」、それ以下の場合は「D」という成績がつけられ、店頭に掲示することが推奨されています。
これら点数制による点数及び評点方式によるアルファベットの成績は、環境庁ウェブサイトの所定のページ(https://eservices.nea.gov.sg/TR)において、各飲食店ごとに検索可能となっており、各飲食店の食品衛生規制遵守をより強く動機付けています。営業停止の際には、同サイトのニュース欄(Newsroom)にて公表されます。
また、環境庁の検査の間には、各飲食店が指名する食品衛生者により監査が行われ、規制遵守が更に担保されています。食品衛生者は環境庁の認定制になっており、日本の食品衛生責任者に類似しています。
さらに、今年6月1日から、全てのケータリング業者は、食品による事故の危険の発見、予防および減少のための予防対策について記載した「食品安全管理システム」(The Food Safety Management System/FSMS)を提出し実行することを義務付けられました。
以上のとおり、シンガポールは厳しく食品衛生を管理しており、その規制内容は年々厳しくなっています。