パナソニック(松下電器)の創立者である松下幸之助氏は、「小手先のテクニックを使うな! 」と従業員によく言ったそうです。まさに、小手先のテクニックではどうにもならないもの、それがブランディングだと思います。ブランディングはビジネス上の戦略、戦術としてとても大切なことですが、「真心」の入らないブランディングはありえません。ご愛顧されるには、「真心」を「信頼」に変えないと成立しないのです。
「あそこの会社は、看板があるから強い!」と言われ続けた会社がありました。そんな看板力(=ブランド力)をもった会社やお店でも、これまでと同じことをやっているのにお客様が離れていく。サービスも向上させ、価格も下げてみたが、お客様の心をつかまえることが難しいと苦戦されています。
一方で、小さくても地元や特定のファン層にご愛顧され、気づけば全国にも信者を増やし続ける会社やお店があります。何が違うのでしょうか? その1つは、最初に“How many”ではなく“Who?”、つまり「どれだけ多くの人に」ではなく、「誰に?」に焦点を当てているかの違いです。情報があふれすぎている時代。広告・メディアの世界も多様化し、大衆広告時代(みんなが同じ広告を見る時代)ではないので、メッセージが確実に届くわけでもありません。受け取る側も、一方的に与えられる情報には、「信」を欠くものも多く、マイナスのイメージでとらえる場合もあります。
だからこそ、売るのではなく、選ばれるために何をすべきか。自分たちは、誰に選ばれたいのか。を最初に考える必要があります。
自分たちの「ほんもの」を本当に伝えたい人に正しく伝えること。そこから生まれる興味・関心を、期待感も含めたご愛顧に変えていく。そのプロセスの後に生まれるのが“How Many(どれだけ多くの人に)”だと思います。
まずは、相手から見て「世間にとってのブランド」ではなく、「私にとってのブランド」にならなければいけません。「私にとって……」になると、愛情の注ぎ方が格段に違うのです。みんなからモテなくても、「大好きなあの子からは選ばれたい! 」、「あの子にとっての自分!」でいいのです。
いかがでしょうか。掘る井戸が変わってしまいそうでしょうか。それぞれの会社やお店によって、背景、環境、ストーリー、すべてが異なると思います。つながりたい相手も違うでしょう。だからこそ、自分たちだけのブランディングができるのです。そして、その「ほんもの」を待っている人がいるのです。まずは、自分たちの「真心」を受け取ってくれる人たちを思い浮かべてみましょう。
安心してください! 日本の企業人のブランディングセンスは、お墨付きです。100年企業が2万6,000社以上、200年企業が3,100社以上、1,000年企業が7社と、いずれも世界ダントツの1位。ただ、時代の流れの中で「小手先のテクニック」についつい走りがちになり、見失っているものがあるのかもしれませんね。
ブランドの旗が立てばマーケティング方法が変わり、広告手段が変わり、ビジネス効果も変わります。加えて私は今、ブランディングを「信」の伝承ととらえ、たとえ小さくとも必ず誰かの心の中で消えることなく、灯り続けるものにしたいと思っています。
世界を席巻する、または国民すべてに認知されるブランドづくりではないかもしれませんが、100年続くような「愛され続けるブランドづくり」について、次回以降もお話していきたいと思います。