2016年3月7日
[第4回]日本と違う、シンガポールの契約書
3.契約に関するルールや規定内容の違い
①契約の成立条件の違い
日本では、当事者が特定の権利義務について合意することにより契約が成立しますが、シンガポールではこれに加え、当事者が互いに対価的な負担を負うことが契約の成立に必要となります(=約因〈Consideration〉)。そのため、一方が他方に対して、一方的に義務を負担する合意(贈与等)は原則として法的拘束力のある契約とは認められません。法体系の違いにより契約に関するルールが異なる代表例の1つです。
②契約書の解釈の違い
契約に対する考え方の違いは、契約書の文言解釈にも違いとなって現れています。日本では、契約書に明確に規定されていなくとも、規定の目的や趣旨に照らし、その意味を広く解釈する場合があります。この点、シンガポールの裁判所は、契約書の文言はできる限り文字通りに解釈し、その意味内容を広げることについては限定的に考えています。そのためシンガポールでは広い解釈を期待せず、契約書の文言を具体的かつ詳細に記載すべきといえます。
③契約書外の合意の取り扱い方
日本では「契約書には書いていないけれど、社長同士で約束しているから大丈夫」といった話を聞くことがあります。シンガポールでは、契約書により紛争予防に万全を期すという考え方により、最終的に契約書に記載されなかった合意等を、契約書の締結後になって主張することは原則としてできません(=口頭証拠排除原則〈Parol Evidence Rule〉)。日本でも「完全合意条項」という規定を契約書に盛り込むことが増えており、同様の考え方が根付いてきていますが、シンガポールでは合意した内容を契約書に全て盛り込むよう注意しなければなりません。
④誠実協議?
日本の契約書では、「誠実協議条項」という規定がよく用いられます。これは、万が一トラブルが起きた場合や取り決めていなかった事態が生じた場合、契約当事者間で誠実に協議して解決しましょう、という規定です。契約相手を信頼する日本人的な規定とよく言われますが、シンガポールの契約書では将来の紛争予防に役立つものではないため、ほとんど見ることはありません。
上記はシンガポールと日本の契約の違いに関するほんの一例です。こうしてみると法体系や、契約に対する考え方、また契約に関するルールや規定内容が日本とは違うという点を理解しておくことが、シンガポールにおいてよりよい契約関係を構築するための第一歩と言えそうです。
野原 俊介(のはら・しゅんすけ)
2006年弁護士登録。光和総合法律事務所に入所後、主にM&A、一般企業法務、紛争解決法務等に従事。2015年5月に米国シカゴのノースウェスタン大学ロースクールの法学修士課程を卒業。2015年8月に渡星し、ケルビン・チア・パートナーシップ法律事務所において、東南アジア各国に進出する日系企業の法的支援に従事している。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.297(2016年3月7日発行)」に掲載されたものです。