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星・見聞録

2016年7月18日

CPF、そのメリットと今後の課題は?

年金などの社会保障制度は、国によってさまざま。シンガポールには、市民と永住権(PR)保有者が老後の資産形成などに向け加入するCPF(Central Provident Fund:中央積立基金)や、外国人でも利用できるSRS(Supplementary Retirement Scheme:付加退職年金)という制度がある。CPFは日本の年金制度と比較して何が違うのか、また現在どのような問題を抱えているのか探ってみたい。

 

1.金利が高く免税効果もあるCPF

当初CPF制度は、シンガポール人が定年退職したり、事故や病気で働けなくなった際に経済的な保障を行うことを目的に、1955年に設立された。現在CPFには、住宅の購入費用や子供の教育費用を賄うための「通常口座(Ordinary Account)」と、老後の資金のための「特別口座(Special Account)」、さらに入院費用など医療費を支払うための「医療口座(Medisave Account)」の3つの口座があり、配分率はあらかじめ決められている。民間企業に勤める55歳以下の加入者の場合、毎月の給料から20%を控除し積み立てるシステムで、雇用する側も17%を拠出する。積み立てた分は、原資となる最低金額「ミニマム・サム」(2015年7月から16万1,000Sドル、約1,237万円)を残せば、55歳から引き出すことができる。

 

通常口座と特別口座では4%、医療口座は2.5%と高い利子がつくことが特徴のひとつ。給料からの天引き分や、55歳以降に引き出した分に税金がかからないのも魅力といえるだろう。さらに通常口座と特別口座へ預けた資金を個人で運用できる、CPF投資スキーム(CPF Investment Scheme:CPFIS)と呼ばれる制度もあり、CPFが認可した株式や債権などの金融商品に投資することができる。何に投資するかは自分で選ぶことになるため、より高いリターンが期待できる一方、2.5%~4%の利率は保証されないリスクがある。

 

このほか2001年に、在星外国人でも積み立てができる制度としてSRSが設立された。SRSの口座は、OCBCやDBSなど銀行で開設でき、金利は銀行によって異なる。2016年時点でシンガポール人とPR保有者は年間1万5,300Sドル(約115万円)、外国人は3万5,700Sドル(約267万円)を積み立てることができ、全額が所得控除される。SRSを利用する場合、シンガポールの居住者か非居住者かによって、引き出し、または解約する際の税率が異なる。非居住者のほうが高くなるため、シンガポールに住み続ける予定のない外国人にとってはメリットが少ない制度といえそうだ。

 

シンガポールの社会福祉には「自助努力」の精神
CPFと日本の公的年金制度を比較した際、大きな違いとして、CPFが自分の将来の資金のために積み立てる積立方式であるのに対し、日本の年金制度は現役世代が高齢者のために資金を拠出する賦課方式になっている点が挙げられる。
CPFに詳しいTricor Singaporeの斯波澄子氏はこう指摘する。「日本の社会福祉には、今困っている人を助けようという考えが根底にあるように思います。それに対して、シンガポールでは自分のことは自分で何とかすべきという考え方があるといえるでしょう。両国では、社会福祉についての発想が根本的に違うように思います」。

 

日本の年金制度の場合、少子化・高齢化が進むと現役世代の人数が減る一方、高齢者の人数が増えるため、現役世代の負担が重くなってしまう欠点がある。その点CPFは、自分で自分の老後資金を貯蓄する方式のため、こうした世代間での不公平は起きにくい。また、CPF口座の積立額はオンラインで確認でき、口座に残高を残して亡くなった場合は遺産として家族に相続されるため、日本のような「消えた年金」といった問題も起こりにくいといえるだろう。

 

CPFや日本の社会保障に詳しい東北福祉大学の阿部裕二教授はこう話す。「CPFは国民一人ひとりの積立口座であり、転職しても理論上は預けた資金が宙に浮いたり、消えたりすることはありません。賦課方式を採用し複雑な仕組みとなっている日本と比較すると、制度設計がシンプルで透明性がより高いといえます」。
一方で、CPFのデメリットとして挙げられるのが、平均寿命を越えて長生きした場合に生活資金が足りなくなる恐れがあることだ。また物価が上昇することで、資産の価値が相対的に下がり、老後の生活が苦しくなることもありうる。「シンガポールは依然として経済発展が続いている国であり、インフレの影響で積み立てた額の価値が下がる可能性があります」(阿部氏)。それぞれの制度には一長一短があるものの、世代間格差などが問題視されることの多い日本の年金制度がCPFから学べる点は多いといえるのかもしれない。
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