2015年3月16日
シンガポールでめざすMBA
アジア有数の「教育ハブ」シンガポール。地元の大学が世界ランキングに名を連ね、世界的に有名な海外の大学もキャンパスを構えています。そこで、スキルアップとキャリアアップをめざす人に注目してほしい、シンガポールのMBA(Master of Business Administration/経営学修士)を調査しました。
目次
経済の原動力としての教育から有能な人材を発掘・育成主眼へ
シンガポール政府は教育ハブ構想のもと、2002年に「グローバル・スクールハウス・イニシアティブ(Global Schoolhouse Initiative)」をスタートさせました。この戦略には大きく3つの目的がありました。第1に高等教育をシンガポールの経済成長の原動力とすること。第2に産業界に有益な人材を育成すること。そして第3に有能な人材をシンガポールに誘致し、人材を確保することが目的でした。
経済開発庁(EDB)の誘致によりフランスのビジネススクールINSEADやESSEC、ドイツのミュンヘン工科大学(German Institute of Science and Technology-TUM Asia)といった世界的な有名校もシンガポールにキャンパスをオープンしました。また南洋ビジネススクールと早稲田大学とのダブルMBAプログラムなど海外の大学とのコラボレーションも行われ、国際的な知名度アップに貢献しています。
このように多様な教育環境が実現するなど一定の成果が出たため、2009年より教育ハブとして国際的な有名校を誘致するという方針は転換されました。代わりに、企業にとって優秀な人材の発掘、育成から配置までを一括してできる国をめざすことに力点が置かれるようになりました。また、EDBの働きかけにより、TUM Asiaと南洋理工大学(NTU)との航空工学の共同学位プログラムなどシンガポールの産業に求められる、より専門性の高いコースが開設されました。
就労ビザ、DP保持者でもMBAプログラムで学べる
シンガポールのビジネススクールには、フルタイムとパートタイムの両方のコースが設置されているMBAプログラムがあります。フルタイムの場合、最短約1年で修了できるのが魅力ですが、学生パスの取得が必要となります。一方、パートタイムは在学期間が1年半ほどかかりますが、働きながら平日の夜や週末に受講し、修了をめざすことができます。エンプロイメントパス(EP)とSパス保持者は、仕事に支障が出ない限り、パートタイムコースで学ぶことができ、学生パスを取得する必要はありません。人材開発省(MOM)は通学を雇用者と話し合うことを勧めています。DP保持者はパートタイム、フルタイムどちらでも学ぶことができます。ただし、フルタイムの場合は移民・検問庁(ICA)に申請してDPから学生パスへ切り替えるか、または在学期間がDPの有効期間以内であればLetter of Consentを申請するかのどちらかが必要です。
シンガポール人気MBAプログラム比較
シンガポールでは多くの学校でMBAプログラムが開講されています。中でも人気があり社会的に評価も高いのが、シンガポール国立大学(NUS)、南洋理工大学(NTU)、シンガポール経営大学(SMU)、INSEADのMBAプログラム。各ビジネススクールの特長や受講期間、学費などを比較してみました。
シンガポール国立大学
National University of Singapore(NUS)
NUS Business School
概要
- アジアトップクラスのビジネススクール。「フォーブス・インターナショナル2年修了 MBAプログラム2013」アジア1位。
- 「フィナンシャルタイムズ・グローバルMBAランキング2015」世界31位。
- 世界60の協定校との交換留学制度。
- フルタイム(17ヵ月)、パートタイム(24ヵ月、30ヵ月)を設置。
学生数※1
フルタイム100名(日本人14名)/パートタイム44名(日本人0名)
主な出願条件
- 学位
- 2年以上の就労経験
- GMATまたはGREスコア
- 英語試験スコア TOEFL IBT 100 または IELTS 6.5
出願日程
2015年8月入学 出願締切日
〈フルタイム〉ラウンド①1月31日(終了済)/ラウンド②3月31日
〈パートタイム〉最終 5月15日
授業料
フルタイム、パートタイムとも 5万8,000Sドル(GST込み)
南洋理工大学
Nanyang Technological University(NTU)
Nanyang Business School
http://www.nanyangmba.ntu.edu.sg
概要
- アジアトップクラスのビジネススクール。「フィナンシャルタイムズ・グローバルMBAランキング2015」世界40位。
- 企業で実際にコンサルティングプロジェクトに参画するなど、ビジネス現場での実戦を重視。
- 国際フィールドトリップ(Business Study Mission)、交換留学、サマープログラム制度を世界60の大学と協定。
- フルタイム(12ヵ月)、パートタイム(18ヵ月〜24ヵ月)プログラムを設置。
学生数※1
フルタイム 90名(日本人6名)/パートタイム60名(日本人0名)
主な出願条件
- 学位
- 少なくとも2年の職務経験(3年以上が望ましい)
- GMATまたはGREスコア
- 英語試験スコア TOEFL IBT 100 または IELTS 6.5
出願日程
2015年7月入学 出願締切日
〈フルタイム&パートタイム〉3月31日
授業料
フルタイム、パートタイムとも 5万5,000Sドル(GST別)
シンガポール経営大学
Singapore Management University (SMU)
Lee Kong Chian School of Business
http://business.smu.edu.sg/mba
概要
- アジアの視点で学ぶ実践的なMBA。
- 世界有数のビジネススクールである米国ペンシルバニア大学ウォートンスクールがモデル。
- 少人数制。
- フルタイム(12ヵ月)とパートタイム(18ヵ月)を設置。
学生数※1
フルタイム:58名(日本人0名)/パートタイム:39名(日本人2名)
主な出願条件
- 学位
- 少なくとも2年の職務経験
- GMATまたはGREスコア
- 英語試験スコア TOEFL IBT 90 またはIELTS 6
出願日程
〈フルタイム〉
2016年1月入学出願締切日 ラウンド①3月1日(終了)/ラウンド②7月18日/最終10月30日 〈パートタイム〉
2015年7月入学出願締切日 最終 5月31日
授業料
フルタイム:6万900Sドル/パートタイム:6万3,130Sドル(いずれもGST込み)
INSEAD
Asia Campus
概要
- フランス・パリ郊外のフォンテンブロー(Fontainebleau)、シンガポール(アジアキャンパス)、UAEアブダビにキャンパスがある。
- 世界ランキング上位のMBAプログラム。「フィナンシャルタイムズ・グローバルMBAランキング2015」世界4位。
- 入学時期は年2回、1月と9月にあり、約80ヵ国の出身者が入学。
- フルタイム(10ヵ月)コースのみ。
学生数※1
アジアキャンパス:416名(日本人12名)
主な出願条件
- 学位
- 職務経験
- GMATまたはGREスコア
- 英語試験スコア(以下のいずれか)
・TOEFL IBT 105
・TOEIC リスニング&リーディング 950、ライティング 170、スピーキング 190
・IELTS 7.5
出願日程
2016年1月入学 出願締切日
ラウンド①3月4日(終了)/ラウンド②4月22日/ラウンド③6月17日/ラウンド④8月5日
授業料
6万5,800ユーロ(約10万Sドル)(GST込み)
※記載されている情報は2015年3月現在のものです。出願の際には成績表や推薦状、エッセイなどの提出を求められる場合があります。最新の出願情報は各校のウェブサイトなどにて確認ください。
私がシンガポールでMBAをめざした理由
アジアをじっくり学ぶために17ヵ月プログラムを選択
小林 輝亮(てるあき) さん
NUS MBA在学中
MBAをめざした動機
早稲田大学文学部で中国語・中国文学を専攻して銀行に就職し、その後株式・投資情報リサーチ会社でシニアアナリストをしていました。学生時代に中国や豪州に短期留学の経験はありましたが、いつか長期留学したいと考えていたこと、また社会人として10年経った時、もっといろいろな人と切磋琢磨しつつ自分を成長させたいと思い、留学を決意しました。
金融業界で得た専門的な知識をビジネスの場で活かすことを学ぶには、ファイナンス系の大学院という選択肢もあったのですが、幅広く学びたいと思いビジネススクールでMBAをめざすことにしました。TOEFLとGMAT対策のために予備校に通い、準備には1年半弱をかけました。
シンガポールのMBAを選んだ理由
米国のMBAをめざす人が多い中で、差別化を図るために最初からアジアを志望しました。将来日本に戻って働く際にも、これからはアジアでの経験が活きると考えたからです。香港の大学にも出願しましたが、学ぶ内容が中国市場にフォーカスしているのに対し、シンガポールの方が多様性に富んでいるように感じました。
NUS MBAを選んだ理由と現在
フルタイム17ヵ月のプログラムでじっくり勉強したり、インターンシップに挑戦したりできると考えたこと、交換留学制度が充実していたことなどからNUSを選び、2014年に入学しました。学生の多様性という点では米国の一般のビジネススクールよりもアジアを中心にいろいろな国から学生が集まっていると思います。フルタイムの学生100人中、日本人学生は14人でインド、中国出身者に次ぐ多さです。
多国籍の学生と一緒に取り組むグループプロジェクトでは、思いもしなかったようなアイデアが出されて新鮮です。また自分の意見を主張し、就職を見据えて貪欲に学ぶといった姿勢は勉強になります。
卒業後は、就職の選択肢が多いことと、家族がいることから日本に戻ると思います。企業のアジア展開や投資、M&Aのサポートといった仕事に携わりたいと考えています。
私がシンガポールでMBAをめざした理由
1年で集中して学べる実戦的&柔軟なプログラム
大原 友城(ゆうき)さん
Nanyang MBA在学中
MBAをめざした動機
MBAを意識したのは高校時代です。友人のお父さんが書かれたMBAについての本を読んで、自分も将来MBAホルダーになりたいと思いました。
慶應義塾大学商学部でマーケティングを専攻して卒業した後、市役所で2年間税務担当として勤務しつつ、MBA出願に向けて準備をしました。IELTSは独学、GMATの英語と数学は予備校に通って勉強し、約1年で必要なスコアを達成することができました。
シンガポールのMBAを選んだ理由
シンガポールのMBAを選んだのは、日本の大学のMBAよりも世界ランキングの上位に入っていること、米国に比べて学費が安いこと、そして通常2年を要する米国のMBAに対し、フルタイムであれば1年で修了することが可能なことが理由です。これからの日本の経済にとって、東南アジアの存在はますます重要になります。このような状況の中で、いろいろな国から人が集まるシンガポールならアジアを俯瞰しつつ学べると考えました。
Nanyang MBAを選んだ理由と現在
2014年7月に入学しました。1年で修了できるプログラムがあることが選んだ一番の理由です。一方で入学してから卒業を1年延期し、その間交換留学プログラムを利用して海外のほかの大学で学んだり、企業でインターンシップを経験したりするなど、フレキシブルな選択肢が用意されていることにも惹かれました。
多様なバックグラウンドを持つ学生が集うことを重視していると感じます。私の学年は約50人いる中で、その出身国・地域は約20ヵ国にもなります。ディスカッションの時は日本では聞けないであろう意見が出され、興味深いです。「世界最高のビジネススクール教授」に選出された Vijay Sethi教授担当の「Technology&e-Business」という必修科目や、実際の企業にビジネスアイデアを提案したり、企業を訪問して話を聞いたりなど実戦的なプログラムが多いことも特色だと思います。
修了後の進路はまだはっきりとは決まっていませんが、日本の将来に貢献できる仕事に就きたいと思っています。
私がシンガポールでMBAをめざした理由
少人数クラスで鍛えられた日本人が苦手な「ソフトスキル」
三宅 崇之 さんSMU MBA修了
欧州系投資銀行勤務
MBAをめざした動機
日本の証券会社で4年半、営業をしていました。MBA留学を考えたのは勤めて3年目ごろです。学習院大学経済学部経営学科にいた学生時代は体育会野球部でピッチャーをしていてあまり勉強しておらず、いつかしっかり勉強したいと思っていたこと、またキャリアに直接役立つと思いMBAを志望しました。仕事をしつつ英語は基礎からほぼ独学でやり直し、TOEFL、GMAT対策に個人塾へ通い、約2年かけて準備しました。
シンガポールのMBAを選んだ理由
多文化国家であり金融ハブ、アジアのビジネスの中心地であることから、シンガポールを選びました。そして米国のMBAに行くよりも学費が格段に安いこと、欧米のMBAに行く人は多いので、自分は違うところ、差別化を図るためアジアへ行きたいという思いがあったことも理由です。2013年1月入学、12月卒業という1年のプログラムがあったことと、少人数制でコミュニケーションやプレゼンテーションといったソフトスキル重視の大学ということでSMUを選びました。
SMU MBA在学中と現在
SMUではディスカッション主体のクラスで積極的な発言が求められ、成績に反映されます。振り返ると勉強は本当に大変でした。しかし、一般に日本人が苦手とする能力を徹底的に鍛えられ、英語での面接やプレゼンテーションにも自信がつきました。アジアを中心に世界20ヵ国からのクラスメートと学ぶ中でいろいろな価値観を知ることができたことが、シンガポールで外資系金融機関で働く今、社内外でのコミュニケーションなどに役立っています。
SMUはシンガポールの中で比較的若い大学であり、エネルギッシュに成長していると感じます。中心部にキャンパスがあるので通いやすく、在学中にCBDにあるコンサルティングファームでインターンシップをした時にも便利だと思いました。働きながらパートタイムでMBAをめざす人にとっても、SMUはMRTシティホール駅から徒歩数分のところにあり、またブラスバサ駅にも直結しているのでおすすめです。
私がシンガポールでMBAをめざした理由
世界各国で活躍する卒業生国際的ネットワークの一員に
高橋 幸嗣 さんINSEAD MBA修了
教育関連企業勤務
MBAをめざした動機
高校卒業まで北海道で過ごし、その当時から「International」ということに関心を持っていました。そこで国内の大学に進学するよりは海外の大学に行こうと考え、米国カリフォルニア大学アーバイン校に進学し、国際関係学を専攻しました。在学中に学生新聞の記者をし、新聞社でインターンをするなどジャーナリストを目指しましたが志叶わず帰国。その後外資系のコンサルティング会社や投資銀行で働きましたが、いろいろと経験する中で「人生をリセット」したいと思い、MBA留学を決意しました。MBAを選んだ理由には、体系的に経営を勉強したいということもありましたが、世界中の仲間達と、一生付き合えるネットワークを作るということが大きかったです。米国の大学を卒業していたので出願の際の英語試験のスコア提出は免除され、GMAT対策は英語で講義を受ける予備校に約1年通いました。
シンガポールのMBAを選んだ理由
志望校選定にあたっては米国のビジネススクールにも見学に行き興味が湧いたのですが、ヨーロッパとアジアを拠点にしていることや、生徒や卒業生の国際性や多様性がダントツだったINSEADが魅力的でした。その中でも日本にも近く成長市場であるアジアで学びたいと思い、2006年8月、10ヵ月のフルタイムプログラムに入学しました。
INSEAD MBA在学中と現在
在学中はパーティーや旅行など、ひたすら楽しみましたね。コツコツ勉強している人もいるのですが、勉強しているところは見せずに、限られた時間をいかに楽しむかがINSEAD流というか……。もちろん試験は大変でした。また、私も含め、約10ヵ月(5学期)のうち、シンガポールで6ヵ月間、フランスのフォンテンブローのキャンパスで4ヵ月間を過ごす人が多かったです。
現在は各種テスト事業やオンライン分野で新規事業を手がける教育関係の会社で仕事をしています。東南アジア、インドをはじめ、いろいろな国に出張で行くことが多いのですが、どの国に行っても現地の第一線で活躍するINSEAD出身者に会える。INSEADには、世界170ヵ国以上の卒業生がいるそうです。この世界的な人間関係こそ、INSEAD MBAで学ぶ意味であり、財産だと私の実体験から思います。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.276(2015年03月16日発行)」に掲載されたものです。
文= AsiaX編集部