2018年12月29日
第6回 ナショナル・ギャラリー
竣工:2015 年 建築家:STUDIO MILOU ARCHITECTURE 施工:竹中工務店
5 階のルーフトップバーに立つと、右手に金融街、手前にマリーナベイ・サンズ、左手にマリーナ地区が見え、ここがシンガポールの心臓部である事が直感的に理解できる。ここナショナル・ギャラリーはシンガポール建国五十周年を記念して、東南アジアにおける芸術のハブとなるべく、英国植民地時代の歴史的建造物である旧市庁舎と旧最高裁判所を連結・改修する形で誕生した。規模も七万平米と世界第一級の美術館、例えばオルセー美術館等と並ぶ巨大建造物だ。企画展、常設展だけでなく、グルメ、子供達がアートに触れられる場も多く、様々な人を呼び寄せる内容となっている。
歴史的建造物である両建築に大きな変更を加えない為に、二棟は地下を抜ける大きな通路と建物の間にある樹木の様な構造体で支えられたガラス屋根、階高の異なる建物同士を新築の橋で連結している。また、この建物はエントランスのデザインも秀逸だ。二つの建物の間にある吹き抜けを覆う天蓋の間からは木漏れ日の様な光が漏れ、来訪者を優しく迎える。旧市庁舎側には巨大なガラス屋根に支えられた水盤が吹き抜けの上にあり、柔らかい波模様の光が特徴的だ。外観は増築部である天蓋により二棟の建物の高さが揃った事で統一感が出た。
施工は竹中工務店が行っており、両建物を繋ぐ地下部分の工事はマリンクレーと言う、軟弱な地盤の上に建つ既存の建物を仮の構造体 ンで支えながら、構築する工事をしている。また、旧市庁舎内にはリー・クワンユーが歴史的なスピーチを行った部屋が残されており、その部屋を丸ごと空中に仮の構造体で支えながら、レンガ造、PC 版でできた保存外壁を保持し、内部の既存躯体を解体する複雑な工事を進めた。この結果、新旧が見事に入り混じった国家的記念事業に相応しい名建築が完成した。
著者プロフィール
藤堂 高直(とうどう・たかなお)
1983年東京生まれ。15歳の時の渡英する。
2008年にロンドンの名門建築大学AAスクールを卒業。
同年に英国王立建築協会パート2資格を取得。卒業後はロンドン、ミュンヘン、パリ、東京と建築設計に携わる。
2012年に渡星、現在はDPアーキテクツに所属。
スペインのログロニョで行われた設計競技に優勝。
シンガポールでこれまでに手掛けてきたのは、ゲンティン・ホテルやオーチャード・ロードのインターナショナルビル改装など。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.340(2018年12月1日発行)」に掲載されたものです。