2018年12月28日
第1回 AIの脅威ではなくチャンスに着目する
長年経営コンサルタントとして活動してきた中で、クライアントに最良の結果を得て頂くために、私は、普遍的な原理原則に基づきながら、最先端の経営理論やテクノロジーを積極的に導入することを常に意識してきました。
その中で今私が最も着目しているのがAIの導入です。これをお読みのあなたも、きっとこの話題について聞かない日はないでしょうし、「またその話か」と思われるかもしれません。
ただ、極めて多くの人が、AIについて勘違いしており、それを正せるかが、企業にとっても、社会にとっても、AIが大きな飛躍のチャンスになるか脅威になるかの分かれ道になります。そして前者の未来を実現するためには、AIについての捉え方だけでなく、資本主義や経営というものに対する捉え方自体を変える必要があります。
本シリーズでは、それがどのようなものかをお伝えしていきます。初回である今回は日本の実情がベースになりますので、超少子高齢化への対応が日本より進むシンガポールではすでに普通の話かもしれません。ただ、全体像をご理解頂く上で順を追ってお話しすることが重要になりますので、ぜひお付き合いください。
東京商工リサーチの調べによれば、日本企業の倒産件数は、2014年に1万件を割り込み、減少傾向が続いている一方、倒産件数の3.5倍にも上る会社が「廃業」をしています。その数は、何と年間2万9,000社にも上ります。特に建設業や飲食をはじめサービス業の廃業が顕著で、資金難で動きが取れなくなる前に自ら廃業を選ぶ経営者が増えているそうですが、その最も大きな理由は【人手不足】です。
それもそのはず、日本の中小企業は今、空前の採用難にあり、新卒に限っては、従業員300人未満の中小企業の求人倍率(学生1人に対する求人数)は9.91倍で過去最高です。つまり、学生1人を10社の企業が取り合う状況で、今後少子化が進めば、ますます労働人口が少なくなり、人件費は高騰し、中小企業は、さらに厳しい経営を余儀なくされます。
しかし、その問題を解決できるのがAI/RPA(Robotic Process Automation)という技術です。
時給数十円で働いてくれる小人がいたとしたら?今まで3人でやっていた仕事が1人でできるとしたら?実際にそれが現実化しています。
AIが高価だったのは昔の話。開発不要で月数万円から利用できるAI/RPA技術が次々に登場しており、採用費や教育費、高騰化する人件費を支払うことなく作業を自動化できます。
それを活用すれば、人材不足や人件費高騰に悩む企業にとって、まさにAIが救世主となり得ます。さらに、人手が余っている企業がAIやRPAの導入を進めれば、人手不足企業への人材流動が発生するボリュームにいずれ達するでしょう。
その時によい人材を惹きつけられる労働環境を作る上でもAI/RPAの活用は有効です。高収益体質で給料が高い、面倒で時間ばかりかかってつまらない単純作業はやらなくていい、創造的で楽しい仕事に集中できる。働き手にとって、言うことなしではないでしょうか。
実際にはこれだけで問題は解決しませんが、それは次回以降のテーマとして、まずはAIが短期的に脅威である以上にチャンスであることを認識し、何となくのイメージではなく、AIやRPAを活用して直近の経営課題を解決することを考えてください。それが今後訪れるより大きな変化にむけての大切な準備にもなります。
鳥内 浩一
15年以上に渡り、経営者・マーケッターとして現場で活動しながら、100業種300社以上のクライアントに対してコンサルティングを行い、関わる全てを幸せにする “十方よしの経営学” 『日本発新資本主義経営』を広めている。規模の大小・業種業態を問わず、業績向上へと導く手腕に定評がある。著書に「売れる仕掛け」「逆説の仕事術」「『コラボ』の教科書」。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.341(2019年1月1日発行)」に掲載されたものです。