シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP第3回  人間とAIの間にある最大のカベ

AI時代に飛躍する経営

2019年3月6日

第3回  人間とAIの間にある最大のカベ

 前回、AI によって代替される仕事は、現在人間が行っている形式的な業務に留まらず、CMH(Creativity, Management, Hospitality)などの形式的ではない仕事、また人の心に関わる分野にまで及ぶ可能性について指摘しました。 しかし、人間と AI の間には、ある決定的な違いが存在します。その違いを生かせるかどうかが、個人や企業が AI 時代に飛躍し続けるための鍵になります。
 ではその違いとは何か。その答えは、戦後、日本を恐れた G H Q によって本質が封印されてしまった、ある漢字に秘められていて、AI 以前に、CMH やカウンセリングの仕事を成功させる上で最も大切なことが何かを考えれば分かります。

 

 マネジメントが成功するのは、単に指導やアドバイスが的確だからではありません。部下に、正論や正解を与えてもなかなか動いてくれない経験をされている方も多いでしょう。でも、人がホスピタリティを感じるのは、単に礼儀作法がしっかりしているとか、自分の望みが叶えられたからではありません。いかに「自分が大切にされている」と感じるかです。たとえ同じ言葉であっても、言われる相手によって印象はだいぶ違います。同様に、同じ行動でも、相手の態度によって生じる印象もだいぶ違ってくるものです。

 

 その違いは一体どこから生まれるのでしょうか。それは、一言で言うと、「気持ちが通じ合っているかどうか」でしょう。
 「この人は、本当に自分のことを思ってくれている。自分のために一生懸命頑張ってくれている」。これが伝わるからこそ、人の気持ちは動くのです。
 仮に、AI が膨大なビッグデータと綿密なディープラーニングを元に「 この人に最適な解はこれです」という答えを出したところで、AIから人間に対する気持ちは伝わりません。もちろん、それで十分な場合もありますが、それで十分でないところにこそ、人に残される仕事が存在します。

 

 そろそろ答えはお分かりでしょう。人間とAI の間にある決定的な違いをあらわした漢字は、まさに気持ちの「気」です。
 この「気」は、戦後新字に取って代わりましたが、旧字の「氣」には、その本質がいまだに残っています。旧字にある「米」は、生命エネルギーの光を八方に放っている姿だと言われており、また日本人の主食でありエネルギー源の「米」でもあります。旧字の「氣」はエネルギーを放ち、さらに広がっていくイメージに対し、一方で新字「気」の「メ」=「しめる」という字は、天地のエネルギーを閉じ込め、人間に備わった潜在能力を封印してしまうものです。
 AI が(少なくとも現時点では)コピーすることの出来ないこの「氣」こそが、人間の優位性であり、それゆえ、AI 時代に飛躍する上でますます重要なものなのです。

 日本の先人は、AI 時代を迎えるはるか前から、経済や仕事に限らず、健康や人間関係において、「氣」が決定的に重要であることを理解していたからこそ、景氣・元氣・人氣という表現を用いてきました。AI の時代がすぐそこに迫っていている今、もう一度それを見直す時 期に差し掛かっているのではないでしょうか。
 残念ながら、日本に限らず、近代の資本主義は、こうした本質を無視し、人間本来の潜在能力を十分に活かすことをしてきませんでした。それが AI の登場によっていよいよ露呈するとは何とも皮肉な話ですが、そこに気づけるかどうか、そして本来あるべき姿に向かって舵を切れるかどうかが、この先の未来を決定づけます。
 次回以降、それに気づけた場合と気づけなかった場合の2つの未来についてお話ししたいと思います。

 

プロフィール
鳥内 浩一

15年以上に渡り、経営者・マーケッターとして現場で活動しながら、100業種300社以上のクライアントに対してコンサルティングを行い、関わる全てを幸せにする “十方よしの経営学” 『日本発新資本主義経営』を広めている。規模の大小・業種業態を問わず、業績向上へと導く手腕に定評がある。著書に「売れる仕掛け」「逆説の仕事術」「『コラボ』の教科書」。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.343(2019年3月1日発行)」に掲載されたものです。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP第3回  人間とAIの間にある最大のカベ