書経の一節、地平かに天成る(国の内外、天地ともに平穏・平和な状態になること)が由来の「平成」は、その願いも虚しく内外ともに波乱の時代だった。日本株マーケットも例外ではない。昭和末期の株高を引き継いだのも束の間、ほどなくバブル崩壊に直面することになる。日本経済の低迷と歩調をあわせ、その後も長いトンネルを抜け出せなかったのは周知の通りだ。以下、低迷が続いた平成の株式相場を足早に振り返る。また、本稿執筆中の3月初旬時点で国内外に不確定要素が多いとはいえ、大筋の流れを想定しつつ新元号後のマーケット動向も占ってみたい。
株式相場も「失われた20年」、平成の前期・中期は暗黒時代
改元から1年も経たない平成元年(1989年)12月、日経平均株価は史上最高値の38,957円を記録するのだが、これが図らずもバブルのピークとなってしまった。株価が下落に転じた主因は、不動産投機の抑制に向けて政府が関連融資の総量規制を導入したこと。不動産を担保に株式を買い付ける投資家が少なくなかったため、同規制の導入は不動産市況の下落をもたらすにとどまらず、株式相場をもクラッシュさせてしまったのだ。これ以降は日本経済全体と同様、株式市場も「失われた20年」に突入することになる。
その後、ひとまず底を打ったかに見えたのは平成15年(2003年)4月だ。7,603円まで下げた日経平均株価は、そのタイミングで切り返しに転じる。日本銀行が平成13年(2001年)3月に導入した量的金融緩和政策(量的緩和)の効果が実体経済に表れ始めたことに加え、当時の小泉政権による各種の規制緩和策が好感される形で、海外ファンドが一斉に「日本株買い」に動き出したことなどが要因だ。こうした追い風に乗って、日経平均株価は平成19年(2007年)2月の戻り高値(18,300円)まで上昇し続けた。
しかし、その後は再び相場がクラッシュする。前述の量的緩和が平成18年(2006年)に終了したことのほか、米国でサブプライムローン問題が表面化し始めたことなどが逆風だ。追い打ちをかけるように、平成20年(2008年)9月には米証券大手リーマン・ブラザーズの経営が破たん。いわゆる「リーマン・ショック」に見舞われる中、日経平均株価は同年10月に6,994円の最安値をつけることになる。これが大底になったとはいえ、民主党政権下の平成24年(2012年)冬まではなお上値の重い展開が続いた。東日本大震災という未曽有の災害が発生したことも痛手だが、株式市場にとっては円高の進行に伴う経済の停滞が最大のマイナス材料といえる。
アベノミクスで急回復、平成後期に大きく切り返す
自民党の政権奪還が転機となり、平成24年(2012年)末からの日本株マーケットは急反騰の局面を迎えた。「アベノミクス相場」の始まりである。株価の上昇をもたらしたのは、周知のように大規模な金融緩和とそれに伴う円安――。金融緩和に関しては、日本銀行の黒田東彦総裁が就任直後の平成25年(2013年)4月、「量的にみても質的にみても、これまでとは全く次元の違う金融緩和を行う」と会見でコメントしたことが記憶に新しい。いわゆる“異次元の金融緩和”によって、通貨供給量を2年間で2倍に拡大する意向を表明したのだ。
これを「無秩序な金融緩和」と批判する向きもあるが、少なくとも株式市場は素直に好感。2016年6月の英EU離脱決定や2018年後半の米中貿易摩擦などの外部のマイナス要因によって日経平均株価が何度か急落する場面がみられたものの、長期スパンのチャート的には今なお上昇トレンドが継続している(今年3月4日の終値は21,822円)。
円安もまた、長期上昇トレンドを実現させた功労者。国によっては自国通貨の下落が株価を押し下げるケースもあるが、日本では過去10数年にわたり円安の局面でほぼ株価が上昇。円安が多くの企業にメリットをもたらすため、企業業績の改善で株価が上昇するという分かりやすい構図だ。また、通貨安が物価上昇につながる点も見逃せない。現在の日本ではデフレ脱却(=インフレ目標の達成)が景気浮揚のカギを握っているため、「円安基調の持続が物価を底上げする」と期待されている。
なお1990年代の後半から2000年代の前半にかけては、前述の構図に反し円安が株安に結び付く場面が多くみられた。山一証券ショックなどで日本売り(=円安、株安)が進んだことに加え、物価動向が国内経済に与える影響について、現在の受け止め方と真逆だったことが要因。「インフレ=悪の元凶」と見ていた当時は、円安の進行による物価の上昇が金利高や景気後退につながると警戒されていたのだ。インフレ目標の達成に苦しむ現状を思えば、まさに隔世の感がある。
当面の株価動向を楽観、円安基調が下支え
平成の後期に出現した株式相場の上昇トレンドは、新元号に切り替わる2019年5月以降もしばらく継続すると思われる。株価を下支えする最大の要因ともいえる円安の流れについて、当面これを反転させるような目立った材料が見当たらないからだ。むしろ経済ファンダメンタルズの面では、円安ドル高につながりやすい複数の要因が存在している。
まず、日米金利差の縮小可能性が低いこと。デフレ脱却を目指す日本は金利を引き上げることが難しく、一方の米国は(このところ利上げペースを減速させる傾向にあるとはいえ)基本的には金利を段階的に引き上げていく局面にある。このような状況では、当然ながらドルが対円で強含むこととなろう。
また、日本企業の海外シフトが進んでいることも円安につながる要因。日本のメーカー各社は以前、国内で生産した商品を海外に出荷することで米ドルなどの外貨を稼ぎ出していたため、これが円買いドル売りの需要を底上げする効果をもたらしていたのだが、このところ海外で生産した商品を海外で販売する動きが加速しはじめるなか、この部分で円買いの需要が減少しているのだ(=円高の抑制要因)。
さらに、1,800兆円に膨らんだ日本の個人金融資産が今後、海外に流出していく可能性が高いことも円安につながろう。低金利下の国内に魅力的な投資商品が少ない以上、より高い利回りを求めて個人の資金が海外に向かうことは避けられそうもない。国内資金の流出は一見すれば日本株マーケットにとってネガティブだが、圧倒的な存在感を誇る海外投資家(東証売買シェアの約7割を占める大口参加者)の買い需要が細らない限り、資金需給の悪化を懸念する必要はないだろう。
もっとも、日本株マーケットを取り巻く環境に不透明な要因があるのも事実。たとえば、短期的には英国のEU離脱問題がある(3月初旬の時点では依然、「合意なき離脱」の恐れも残る)。また、朝鮮半島や中東の地政学リスクや米中貿易摩擦の動向も無視できない。米中貿易摩擦に類似する動きでは、米国が日本に貿易赤字の削減を強く要求する可能性もある。そこで円安基調が問題視された場合は、当然ながら日本株マーケットにとって逆風だ。
なお、中期的な不確定要因としては10月に予定される消費税の引き上げが考えられよう。ここに来て再度の見送り観測が浮上しはじめているものの、予定通り実施されれば、景気減速の懸念で株価の上値が抑えられる可能性が大きい。逆に実施が見送られれば、長期上昇トレンドがさらに継続すると思われる。
(亜州IR市況分析チーム)