2019年4月22日
第4回 AI時代に求められる 新たなマネジメント
前回、AI が(少なくとも現時点では)コピーすることのできない「氣」こそが、人間の優位性であり、それを活かせるかどうかが個人や企業が AI 時代に飛躍し続けるための鍵になる一方、近代の資本主義社会がこの本質を無視してきた、とお伝えしてきました。つまり、AI 登場以前から、多くの企業は、人間本来の潜在能力を十分に活かすことなく、AI に敗れる人間を育て、AI に敗れる経営を行ってきたということです。
今回は、この点を詳しく掘り下げていきます。近代経営におけるマネジメント手法には、大きく3 つのパラダイムが存在します(図参照)。1つ目は、フレデリック・テイラーの科学的管理手法に代表される「行動管理」です。成果(生産量)を最大化するために、単位時間に求められる仕事量をノルマとして設定し、作業プロセスを徹底的に効率化・マニュアル化して、その通りに人を動かす管理手法です。この手法で最初に成功を収めたのがたフォードで、これによって自動車の大量生産方式を確立しました。ここで現場労働者に求められることは、とにかくマニュアル通りに求められた仕事量をこなすことです。つまり、自ら考える人ではなく、歯車のように動く機械であることが求められるのです。この管理手法は、現在も実際に運用されていますが、中でも「ブラック企業」と批判される企業において顕著に見られる手法であるということは注意すべき点です。そしてまさに今、AI やRPA に真っ先に代替されるのがこのタイプの仕事です。「作れば売れる時代」が終わり、求められる成果の比重が生産量から販売量へシフトするにしたがい経営に導入され始めたのが「成果主義」です。行動量ではなく、もっと直接的に販売成果をノルマ化し、成果に対して報酬を支払う「馬ニンジン式」の歩合制やコミッション制が取り入れられ、成果が上がらなければ、最悪解雇されることもあります。
これは、労働者にとっては一見よく見えるけれども極めて過酷、企業や資本家にとっては極めて都合のよい仕組みです。それゆえ、以前指摘したゴールドマン・サックスのトレーダー削減の事例を挙げるまでもなく、こうしたタイプの仕事はどんどんAI に奪われていきます。
何より注目すべき点は、近年のモチベーション研究の結果、こうした「馬ニンジン式」の成果主義が、創造性を破壊することが明らかになっている事実です。
詳しくはダニエル・ピンク著『モチベーション3.0』などをお読みいただければと思いますが、事実こうしたマネジメント手法の導入によって、多くの日本企業は競争力を失い、多くの資本が外資に奪われました。その本質はイノベーションの喪失、すなわち創造性の欠如により、CMH(Creativity,Management, Hospitality)が発揮されなくなったことにあります。
なぜこのようなことが起こってしまったのか?近代マネジメントが、目に見える「成果」や「行動」ばかりを追求し、目に見えない人の「状態」に目をやってこなかったからです。 もっと言えば、「歯車」「馬ニンジン」という言葉に現れているように、「人を人として
扱ってこなかったから」です。そう考えれば、その仕事がAIに敗れてしまうのは自明の理です。人間の優位性が発揮されないのですから。
そして、この「状態」こそ、前回お伝えした人の「氣」持ちです。AI 時代に飛躍する経営を行えるかどうかは、人の「氣」「状態」をマネジメントするというこの新たなパラダイムに移行できるかどうかにかかっています。
次回はその移行ができなかった場合に待ち受ける未来、そして最終回、その移行をいかに行うかについてお話ししたいと思います。
鳥内 浩一
15年以上に渡り、経営者・マーケッターとして現場で活動しながら、100業種300社以上のクライアントに対してコンサルティングを行い、関わる全てを幸せにする “十方よしの経営学” 『日本発新資本主義経営』を広めている。規模の大小・業種業態を問わず、業績向上へと導く手腕に定評がある。著書に「売れる仕掛け」「逆説の仕事術」「『コラボ』の教科書」。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.344(2019年4月1日発行)」に掲載されたものです。