2019年4月23日
Q.他人の無線ネットワークの無断利用(piggybacking)は違法?
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Q : 2018年7月、シンガポール大手医療機関のSingHealthがサイバー攻撃を受け、大量の個人情報が流出しました。シンガポール政府の情報セキュリティ対策を教えてください。
A : インターネットを基盤とするデジタル政府を目指すシンガポール にとって、サイバーセキュリティはどの国にも増して重要な課題となっています。2018年2月5日に新サイバーセキュリティ法が施行され、メディア、政府機関、情報通信などの重要情報インフラを持つ組織がサイバーセキュリティ庁の監督対象となりました。
上記のSingHealthに対するサイバー攻撃は、新法を制定し、政府が重点的にサイバーセキュリティの取り組みをし始めた矢先の出来事でした。シンガポール政府は、更なるセキュリティ強化のため、昨年9月にアセアンシンガポール・サイバーセキュリティ研究所を創設し、情 報セキュリティの研究力を強化するという施 策を打ち出しました。また、国内外からホワイトハッカーを招待し 、政府系情報システムにあえて侵入させることによりシステムの脆 弱性を洗い出すという施策を取ったり、昨年12月にはシンガポール技術機構とサイバーセキュリティ庁が合同で、政府システム及びインターネットのバグを発見した者に報 奨 金を与えるというユニークな取り組みを発表したりするなど、政府はサイバーセキュリティ強化に非常に力を入れていることがうかがえます。
Q :情報セキュリティに関して個人レベルで具体的に注意すべき行為はありますか?
A : 情報セキュリティに関し、シンガポール政府は個人レベルにおいても厳格な取り締まりをしているといえるでしょう。例えば、コンピュータ不正利用法は、所有者の許可なく他人が無線ネットワークを利用する行為を禁止しています。参考までに、日本の下級審裁判例では、平成31年 3月現在、他人の無線ネットワークに無断でアクセスしたとしても、その行為自体は犯罪を構成しないという判断が示されています(東京地方裁判所平成29年4月28日)。
Q :シンガポールで実際に違法と判断された例はありますか?
A : あります。当時17歳だったシンガポール人の青年が、近隣住民の無線ネットワーク(wi-fiネットワーク)に無断で接続して利用したことにより起訴された事件がありました。その青年は裁判の結果、18ヵ月の懲役刑(執行猶予付き)及び80日間の慈善活動への奉仕を義務付けられています。その青年が近隣住民の所有するwi-fiネットワークに接続する為に自宅の周りを徘徊していたことを不審に思った近隣住民が通報したことが逮捕のきっかけでした。なお、この事例は10年ほど前の出来事であり、現在でもコンピュータ不正利用法が厳格に適用されているかは不明ですが、見知らぬ無線ネットワークに無闇に接続しないに越したことはありません。
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ケルビンチア・パートナーシップ 登録外国弁護士 菅谷 伸夫
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.344(2019年4月1日発行)」に掲載されたものです。