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最終回 人間とAIの真の協働が生み出す輝かしい未来

 前回、「他者の幸せ」を追求する経営が、なぜ人の「氣」や「状態」を高め、潜在能力を発揮させ、優れたイノベーションを生み出すことに繋がるのかをお話ししました。

 

 この経営へシフトすることに成功した時点で、その企業は AI が(少なくとも現時点では)できないレベルで CMH(Creativity,Management, Hospitality)を発揮できるため、一定度「AI 時代に飛躍する経営」を実現できているはずですが、今回はさらにその一歩先を行く経営のあり方について考えてみたいと思います。

 

 最も大事なことは、人の「氣」や「状態」を高め、潜在能力を最大限発揮させる手段として、AI を活用する、ということです。

 

 現在、AI に関して見られる技術や議論の多くは、「人間に替わる代替生産手段」、つまりは利益追求のための手段として AI を捉えるものだと思いますが、この捉え方自体が、人をモノとして扱う旧来の経営パラダイムの反映であり、その先に人の幸せはありません。したがって、このような AI 活用の仕方は、すでに見てきたシナリオでいずれ自らの首を締める結果を導くでしょう。

 

 そうではなく、「他者の幸せ」を追求する手段として AI を活用するのです。例えば、「従業員の幸せ」のためであれば、従業員がより創造的な仕事に集中したり、人にしかできない CMH を発揮できるよう AI を活用するという方法があります。たとえばコールセンター業務において、AI がお客様の問い合わせ内容に応じて素早く適切な回答・解決策を検索・発見する役割を担えば、オペレーターは、さらに踏み込んで、問い合わせの背景に隠れたお客様のニーズや悩みを聞き出し、一歩進んだ提案をすることができます。あるいは、お客様の気持ちを理解し、その気持ちを汲んだ温かい声がけができるかもしれません。

 

 AI は人の仕事を代替する存在ではなく、人を支援する存在、もっと言えば、より高い付加価値の創造のために人と協働する存在になります。しかも非常に興味深いのは、ここで導入されるツール自体は全く同じものである、ということです。同じ AI を入れても、経営のあり方やマネジメントのあり方次第で、そこで働く「従業員の幸せ」は全く異なるものになるということです。

 

 もう一つ、「従業員の幸せ」のために AIを活用する方法として、従業員の「氣」や「状態」を高めるための手段として使う、というやり方があります。たとえば、AI によるサーベイエンジンを用いて組織の状態を可視化し、組織改善のサイクルを生み出す「wevox」というサービスがあります。従業員の「氣」や「状態」(彼らはエンゲージメントという表現を用いています)を可視化し、それを高めるための課題の特定や、改善策の提示まで行ってくれるというもので、従来の生産手段としての AI とは全く趣の異なるものになります。そして、「従業員の幸せ」に向けた経営を行うのでなければ、こうしたツールは全く利用価値がなくなってしまうというのが特徴的です。

 

 「従業員の幸せ」以外については、以前お伝えした「十方よし」の図をもとに、いかに AI を活用して「他者の幸せ」に貢献できるかを考えて経営を行っていくかが、「AI時代に飛躍する経営」の筋道です。特に、第6回で指摘したように、現代資本主義は、人間の欲望を際限なく拡大することで成長し、地球環境や未来に至るまで大きな犠牲となってしわ寄せされた、その負債が限界に達しています。これに対する危機感がようやく「持続可能な開発目標(SDGs)」として叫ばれるようになった今、問題解決に向けて AI の最大活用を行うことこそ、これからの企業経営のみならず、社会を発展させ続ける上で最重要の課題になるのではないでしょうか。

 

 本シリーズ「AI 時代に飛躍する経営」は、これにて一旦終了とさせて頂きます。全8回に渡り、拙文にお付き合い頂き、誠に有難うございました。

 

プロフィール
 
鳥内 浩一

 
15 年 以 上に渡り、経営者・マー ケ ッターとして現場で活動しながら、100業種300社以上のクライアントに対してコン サルティングを行い、関わる全てを幸せにする “十方よしの経営学”『日本発新資本主義経営』を広めている。規模の大小・業種業態を問わず、業績向上へと導く手腕に定評がある。著書に「売れる仕掛け」「逆説の仕事術」「『コラボ』の教科書」。