シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP「シンガポール人はすぐ辞めるので仕方ない」という思考停止の罠

危うし!日系企業の常識・非常識

2020年3月7日

「シンガポール人はすぐ辞めるので仕方ない」という思考停止の罠

グローバル人事・組織開発のプロが斬る! 次世代のアジア地域における、これからの強い日系企業とは?

シンガポール人は会社をすぐ辞めてしまう?

 日本人の駐在員の方から「シンガポール人はすぐ辞めてしまうので、育てても無駄」というお話をお聞きすることがあります。確かに、日本の常識から見ると、「非日本人(ここでは以下、外国人と呼びます)は、すぐ辞めてしまう」と見えてもおかしくないですが、実は世界の中では、「日本人が特殊」です。
 
 日本ではこれまで、終身雇用で年功序列、よっぽどのことがない限りはクビになることはない、「会社が社員を守ってくれる」という世界観の中で動いている、極めて特殊な国でした。
 
 このようなことが前提となっている国は、世界中見ても、他には見当たりません。
 
 日本では、社員が会社に忠誠を誓うことで、会社が社員を守ってくれるという基本構造がありますが、他の国では、会社は社員を守ってはくれません。自分の身は自分で守らないといけないのが常識です。
 

外国人が日本人よりも転職する理由

 「外国人は、すぐに転職するから」という考えで、思考停止するのではなく、なぜ転職するのかを考える必要があります。
 
 日本以外の国では、社員は、「今の会社は、自分をきちんと評価してくれているのか。今後、自分の市場価値が上がる可能性があるのか」ということを、常に考えていて、「会社は社員から選ばれる存在である」と考えておいた方がいいでしょう。
 
 特にシンガポールにおいては、年々物価が上がり、生活自体も厳しくなっています。さらに、シンガポールの年金は、日本の年金制度のようにいくら稼いだかよりもどれだけ長く年金を払い続けたかによって将来もらえる年金が増えるわけではなく、自分で稼いだ額の 40%近くがCPF (Central Provident Fund)として蓄積されていく制度が採用されています。若く稼げる時に稼いでおかなくては、老後が不安になるのです。
 
 優秀な人材が転職するのではあれば、それは、優秀な人材をつなぎ止めておけるだけの魅力が自社にないということを意味しています。
 
 また、「転職するのには、転職するだけの理由がある」ということを知っておかなくてはいけません。
 

外国人は転職したがり?

 外国人は、転職をしたくてしているのでしょうか?いいえ、実はそうではありません。
 
 転職はリスクを伴う行為です。「短期的に給与が上がるとしても、転職先できちんと継続して成果を出せるのか?人間関係はうまくいくだろうか?上司との相性はどうだろうか?」など、様々な不安が付き物です。
 
 もし今の職場で、仕事や人間関係に満足しており、将来についても不安がない状態であれば転職を考えるでしょうか?転職は、今の職場にいることよりもよっぽどパワーのいる行為です。
 
 もし、転職に匹敵するような魅力的なキャリアアップができるオファーを、自社から2~3年ごとにもらえれば、優秀な人も、転職と、自社に留まることを天秤にかけて、熟考することでしょう。
 
 実際私は、優秀なシンガポール人が、定期的にチャレンジングで刺激的な仕事を与えられ、どんどんポジションと給与が上がり、同じ日系企業に勤め続けている事例をいくつも知っています。
 
 あなたの会社は、優秀な社員が転職というリスクのある選択をするよりも、自社で働き続けたいと思えるような環境や、将来への希望を与えられているでしょうか?それとも、優秀な人ほど転職を考えるような会社になってしまっているでしょうか?
 

【参考】日本とシンガポールの常識の違い

日本の常識:終身雇用のイメージが強く残る(会社が社員を守ってくれる)
 公的年金制度は、日本国内に住む20歳から60歳までのすべての人が、保険料を納め、その保険料を、高齢者などへ年金として給付する「世代間での支え合い」に基づ いた制度。
 
シンガポールの常識:転職が当たり前(自分の身は自分で守る)
 CPF(中央積立基金)は、個人の積立制度であり、自分で稼いだ金額の40%弱が、政府が強制的に積み立てを管理し、将来の年金などに当てる仕組み。自分の年金は自分で稼いだ分だけ。
 


森田 英一(もりた えいいち) beyond global グループ President & CEO
大阪大学大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュアにて人・組織のコンサルティングに従事。その後シェイク社、beyond global社を創業。日系企業のグローバル化支援事業を手掛ける。社員の主体性やリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発ファシリテーションに定評がある。日本全国6万人の人事キーパーソンが選ぶ「HRアワード2013」(主催:日本の人事部 後援:厚生労働省)の教育・研修部門で最優秀賞受賞。主な著作「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「会社を変える組織開発」(PHP新書)など。日経スペシャル「ガイアの夜明け」「とくダネ!」などメディア出演多数。シンガポール在住。シンガポール在住。
人と組織の可能性を拓く beyond global グループ(シンガポール・タイ・日本)
グローバルリーダーシップ研究所
Email: info@beyond-g.com

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