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「シンガポールで、いま、水ビジネスを考える」

国際的にも水ビジネスへの関心が高まっている中、シンガポール国際水週間が6月22日から26日までサンテック・シンガポール国際会議場で開催される。開催を前に、シンガポールでさまざまな形で水ビジネスに携わる3人の識者にお集まり頂き、話を伺った。

 

水ビジネスの現状

kiyose

清瀬一浩氏

在シンガポール日本国大使館一等書記官。日本水フォーラム会員。国土交通省からの出向で、建設、都市開発など建設系分野と地方自治体支援を担当。2年ほど前から当地の水事情に関心を持ち、水問題に深く関わるように。シンガポールを拠点にした海外と日本とのネットワーキングにも力を入れている。

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水ビジネスへの関心が年々高まっていますが、現状を教えてください。

 

町田氏

地球上の水はほとんどが海水で、淡水は約3%、実際に利用できる水は1%程度と言われています。また、中東や中国の大都市では工業用水や生活用水の不足、タイ、マレーシアなどでは水質汚濁や農業用水の不足、後発国では、上下水道の未整備など、環境や衛生問題など、水に関する問題は地域によってさまざまです。

現在水ビジネス市場の規模は全世界で60兆円、2025年には100兆円規模になるといわれますが、日本企業が強い水処理膜などの素材や水処理設備というのは10兆円程度で今後も横ばいの見込み。市場の残りの50兆円は、コンサルティングやO&Mといわれる水処理の運営・管理で、今後さらに40兆円拡大する見込みです。これらの領域を手がけているのは、水事業が既に19世紀後半から民営化されていたフランス、1980年代から民営化が進んだイギリスの企業のほか、アメリカ、ドイツの企業などです。シンガポール企業も政府と組んで急成長しています。日本企業が水ビジネスにおいてどうポジション取りするのか、課題ですね。

 

和田氏

東レとしては、水処理膜で用途別に対応することでビジネス展開を図ろうとしています。海水の淡水化は従来に比べてコストが下がっていて、RO(逆浸透)膜による更なるコストダウンが目下のテーマです。海水から淡水化した水を、利用後さらに処理して再利用できれば、海水の淡水化より更にコストを下げられます。この水循環型システムは工場などでは既に多く取り入れられています。

水処理膜には大きく5種類あって、海水淡水化に良く使われるRO膜のほかに、NF膜、UF膜、MF膜、MBR膜とあります。MBR膜は水の再利用に適していて、大型設備を必要としません。簡単な機械を水に入れて処理するだけ。各メーカーが今後の研究開発において力を入れていく領域でしょう。

日本企業でO&Mに本格参入している企業は今のところいないようです。

 

清瀬氏

水ビジネスで日本企業がO&Mなどになかなか入れない、という話ですが、日本では上下水道は自治体が運営してきたという歴史に一つの要因があるように思います。しかし、工業用水の回収・再利用は民間で取り組んできたものですし、再利用率も8割程度と高いので、可能性はあるのではと思います。

ただ、日本でも動きが活発化してきていると感じます。日本国内外の水問題の解決を目指す産学官の連携である「チーム水・日本」の中核組織として、「水の安全保障戦略機構」が今年1月に発足しました。この組織は政府へのアドバイザーでもあります。また、同じく1月に日本企業38社による連合「海外水循環システム協議会」の設立が正式に発表され、4月には「下水道グローバルセンター」が設立されました。いずれも「チーム水・日本」の下の各行動チームにも位置づけられており、海外展開を強く意識したグループです。

 

和田氏

海外市場に出る際は、技術の切り売りにならないように注意が必要です。問題解決に最適なパフォーマンスを出せるかという前に、価格競争に巻き込まれてしまいます。

 

町田氏

そうですね。日本の製品に技術力があっても、発注側にとっては選択肢の一つであり、部品は安ければ良い、となりがち。そこを覆すには、日本の製品の特性や利点を理解した日本企業が発注側やコンサルティングなど上流に入る必要もあります。

 

和田氏

難しいのは、水事業は国や自治体などによるものが多く、研究開発段階での成績だけでなく、大規模な事業での実績が求められること。となると、プレイヤーが決まってしまうんですよね。

「チーム水・日本」の取り組みとして海外で何かやれると良いですね。

 

水ビジネスから見たシンガポール

町田史隆氏

国際協力銀行シンガポール首席駐在員。シンガポール、マレーシア、ブルネイ、バングラデシュで日本企業の輸出・海外投資や、海外における資源開発プロジェクトなどを金融面でサポートするほか、国際金融秩序の混乱への対処のための業務を展開、IPP(民間発電事業)ではインドネシア、ベトナム、タイなどASEAN諸国もカバーしている。

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最近のシンガポールの水への取り組みで特に注目されていることは何でしょうか。

 

町田氏

第一は、企業による個別の取組みですね。ハイフラックスがその代表例ですが、中国市場に積極的に進出しており、設計や建設にも関わっています。でも、どのプロジェクトもシンガポール人は数人で、その下に何百人という中国人技術者を活用している。人もシステムも上手く土着化させています。

第二は、政府による地元企業の海外進出支援。当地には、JBICのような金融サービスを提供する組織はありません。どうするかというと、相手国政府への経済協力の一貫として動くのです。天津、昆明、ベトナムなどでも現地政府との関係を構築した上で地元企業を進出させることで、巧みにビジネスの機会を提供しています。

第三が長期的なプロジェクトで使われる金融技術。水事業はIRR(内部収益率)が11~12%と概して利益率は高くありません。また、キャッシュフローが安定している反面、回収期間は長期に及びます。そこで、よく使われるのが事業の証券化。証券化で資金を調達して、バランスシートからも外してしまうんですね。上手く金融技術を使っていると思います。

 

和田氏

最近注目しているのは、日本とシンガポールの共同事業です。水というのは現場ごとに性質が異なり、個性と言ってもいいほど。異なる水を知る研究者同士が一緒に研究を進めることで、より多くの個性に対応できます。

そのためにも、専門家の人的ネットワーク作りにも投資する必要があります。サロンのような場を作って、若手研究者も参加できるようにするとか。ネットワークに入っていくことで、より多くの情報を得られるでしょうから。

 

清瀬氏

私が注目するのは、シンガポール国立大学内にあるリー・クアンユー公共政策大学院によって昨年設立された水政策研究所(IWP, Institute of Water Policy)ですね。IWPの研究成果は公表され、リー・クアンユー公共政策大学院へもフィードバックされます。若手にも投資して、水専門家のネットワークを構築している訳です。人脈作りの上手さをここでも感じますね。

 

水ビジネスを知る好機―SIWW

和田滋氏

在シンガポール共和国東レ代表兼東レインターナショナルシンガポール社代表取締役社長。海水淡水化や下水再利用に欠かせないRO(逆浸透)膜製品でシェアNo.1を目指して同業他社としのぎを削っている東レのアジアでの販売全体を統括。在星5年。シンガポールの水事業への取組みには刮目して見るべきと非常に注目している。

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今年のシンガポール国際水週間の見どころを教えてください。

 

清瀬氏

見どころはやはり水エキスポの中の日本パビリオンとその他の日本企業ブースですね。海外で水ビジネスに積極的に関わっている日本企業が多数出展します。また、25日午後の日本ビジネスフォーラムでは、日本企業・団体によるプレゼンテーションのほか、今年は経済産業省からもスピーカーが参加します。

さらに、初の試みとして大使館主催によるレセプションを開催します。こちらは招待者のみですが、日本企業だけでなく地元シンガポールや中東、インド、欧州、アメリカなど世界各国から150人以上集まる予定で、水ビジネス関係者のネットワーキングの場となることを期待しています。

 

和田氏

ぜひ見ていただきたいのは日本パビリオンですね。当社も出展しますし、高い技術力を持った日本企業が多数出展します。

また、先ほどお話した若手研究者も入れたネットワーキング作りへの東レの取り組みのひとつとして、南洋理工大学と共同研究を行うことになり、期間中に調印式も行われます。

 

町田氏

24日午後に、シンガポールのPUBと世界銀行、JBICでファイナンスフォーラムを開催します。これまでに水ビジネスでファイナンスに関するフォーラムというのはあまり無かったのですが、今回三者で初めて開催することになりました。

水ビジネスというのは、既にお話したようにリターンが低くかつ公共性の高い事業なので、民間だけでファイナンス面でのリスクを負うのは難しい。昨今のような金融危機の中でどう対応していけば良いのか、中・長期的な成長をにらんだ財政出動はどうあるべきか、グローバルな議論が必要です。参加無料ですので、ぜひ多くの方に来ていただければと思います。