2021年9月3日
タイ観光業界:コロナ禍から脱却できず ~「入国隔離免除」段階実施も再び暗雲~
大きく変化するアジア。人口増加の著しいこの地域が近い将来、巨大市場となり世界経済をけん引する日が来る――。その地殻変動を探るべく、旬のニュースとそれを裏付けるデータで、経済成長著しいASEAN諸国の「今」を読み解いていきます。
観光関連収入が国内総生産(GDP)の約2割を占める「観光立国」のタイは、当然ながら新型コロナによって経済全体が深刻なダメージを受けている。国内各地でロックダウンを実施した影響もあり、景気の先行きが一段と不透明になる状態だ。タイ銀行(中央銀行)は今年6月に通年のGDP成長率見通しを1.8%に下方修正したばかりだが、8月にはさらに0.7%まで引き下げている。こうした中、タイを代表するリゾート地のプーケットでは、観光産業のテコ入れに向けた特例措置が導入された。新型コロナウイルスワクチンを接種した外国人観光客を対象に、7月1日から隔離期間なしで受け入れる「プーケット・サンドボックス」プログラムがスタートしている。これが成功した場合は、対象エリアを順次拡大していく方針。ただ、新型コロナの感染が再拡大したために同プログラムは必ずしも順調に進んでいない。10月からは全国一斉の観光再開を目論んでいるものの、出鼻の躓(つまず)きもあって、出口の見えないトンネルから抜け出せるかどうかは現時点でなお不明だ。
まず、現状の打開に向けて導入された「プーケット・サンドボックス」プログラムを亜州ビジネスASEANの記事で確認しておく。
タイ:ワクチン接種者の入国隔離免除、南部プーケットで開始
リゾート地の南部プーケットで7月1日、新型コロナウイルスワクチンを接種した外国人観光客を隔離期間なしで受け入れる「プーケット・サンドボックス」が始まった。政府の経済状況管理センター(CESA)によると、初日の入国者数は約250人。プラユット首相も現地を視察し、10月から全国で観光再開を目指す第一歩を踏み出した。同日付各紙が伝えた。
初日にはカタール航空やイスラエルのエル・アル航空など4社が乗り入れた。7月中には6社が計426便(1日約13便)を運航し、約8,300人が入国する見通し。タイ国政府観光庁(TAT)は7月からの3ヵ月間で、10万人の入国と89億バーツ(約310億円)の観光収入を見込んでいる。
プーケット・サンドボックスが順調に進んだ場合、政府は7月15日から南部スラタニ県のサムイ島、パンガン島、タオ島でも隔離措置の免除を実施する。また、9月1日からは北部チェンマイや東部チョンブリ、東北部ブリラムなどに対象を拡大する。[亜州ビジネスASEAN 7月4日付ニュース]
政府や観光業界の思惑と裏腹に、「プーケット・サンドボックス」は必ずしも順調に進んでいない。前述したように、タイで再び新型コロナの感染が拡大したためだ。デルタ株が猛威を振るう中、8月の1日当たり感染者数は連日で2万人を突破している。こうした感染拡大の波がプーケットにも及び、ついに8月下旬からは「プーケット・サンドボックス」対象者にも入島規制が実施されるに至った。
こうした状況を見る限り、10月から予定している全国一斉の観光再開が成功裡に進むとは思えない。新型コロナの感染者数がピークを打ったとの前提で(なお高水準ながら、8月第4週は1万7,000人台と2万人台を割り込む)、政府は一斉再開の方針を取り下げていないものの、コロナ禍が続く中で外国人観光客が思惑通り増えるかどうかは甚だ疑問だ。ワクチン接種が進展しているとはいえ、10月の時点で感染が収束していると言い切るのは難しいだろう。
いずれにせよ、大打撃を被った観光業界の本格回復はまだまだ先の話といえる。今年上半期を見ても、頼みの綱の外国人観光客は99%減という絶望的な状況だ。これについても、亜州ビジネスASEANの記事で確認しておこう。
タイ:上半期の外国人観光客4万人、新型コロナで99%減
観光・スポーツ省の集計によると、2021年上半期の外国人来訪者数は前年同期比99.4%減の4万447人だった。新型コロナウイルス流行前の20年3月までは入国が可能だったことから、大幅減となった。
21年上半期の国・地域別の来訪者数は、◆米国=5,328人◆ドイツ=3,308人◆英国=3,293人◆中国=2,991人◆韓国=1,905人――の順に多く、日本は1,417人。減少率は各国とも97%以上だった。
6月の外国人来訪者数は5,694人だった。入国禁止措置で20年4〜9月に来訪者ゼロが続いており、前年同月を上回るのは3ヵ月連続。政府は20年10月に外国人に対する特別査証(ビザ、STV)を導入し、ロングステイ(長期滞在)目的で滞在する外国人観光客の受け入れを再開したものの、来訪者数は低調に推移している。[亜州ビジネスASEAN 7月4日付ニュース]
タイの観光業界は、すでに昨年(20年)も大幅なマイナス成長を強いられていれた。下図のように、外国人来訪者数と観光収入がそろって激減したのだ。
今年上半期の惨状を踏まえれば、通年でも大幅な落ち込みが避けられない。つまり激減した昨年をさらに下回り、壊滅的なダメージを受けるこということだ。本格的な回復は、来年以降に持ち越されることとなろう。
亜州ビジネスASEAN