2024年7月31日
Q.法理学(jurisprudence)について
シンガポール裁判所史上、最も有名なアメリカ人と言えば、1994年にいわゆる器物損壊罪で鞭打ち処罰を6回を受けた10代の若者、マイケル・フェイです。また、BBCによると、2019年にシンガポールで大学生を残忍かつ残酷にレイプした罪で、1人の日本人男性が懲役と鞭打ち刑の判決を受けました。外国での処罰方法や、同じ行為でも国によって刑が異なる理由について、法理学(jurisprudence)を通して解説します。
目次
Q1. 法理学(jurisprudence)について詳しく教えてください。
A. Jurisprudenceは、ラテン語の「Juris Prudentia 」に由来します。「Juris」は法律、「Prudentia」は先見性、賢明、知恵、知識、熟練等の意味があります。Jurisprudenceは法理学を意味し、各国で独自の解釈を有します。
Q2. 法理学の具体例を教えてください。
A. 例えば、米国にはミランダ警告という原則があります。米国における憲法に基づき、警察官は被疑者に対して下記のように告知することが義務付けられています。
「あなたには黙秘権があります。あなたの供述が法廷で不利な証拠として用いられることがあります。あなたは弁護士の立ち合いを求める権利があり、もし自分で弁護士を依頼する経済力がなければ、公選弁護人を付けてもらう権利があります。」
ミランダ警告の原則は、ミランダ対アリゾナ州事件(Miranda v Arizona, 384 US 436 (1966))をきっかけに確立されました。米国憲法修正第5条の黙秘権、弁護士の立ち合いを求める権利、必要に応じて弁護士を選任する権利、自己に不利益な供述を強要されないとする権利(自己負罪拒否特権)を有します。
Q3. シンガポールにおいて、ミランダ警告は米国と同じように解釈されるのでしょうか。
A. シンガポールと米国では憲法の思想が異なるため、米国におけるミランダ警告の解釈はシンガポールには存在しません。
1.シンガポールでは被疑者に弁護士を付けることはありませんが、該当する者には善意(Pro-Bono)で提供されます。
2.シンガポールの警察官は、被疑者にミランダ警告のような告知をする義務はありません。一方、シンガポールでは容疑について知らされていない被疑者は、一般的には逮捕時から48時間以上勾留されることはありません。 48時間を超える可能性がある場合は、判事から勾留延長の許可が必要です。
3.黙秘権はシンガポールでは認められていません。黙秘は自己負罪とみなされるため、無実であるならば証言することが求められます。
Q4. シンガポールで拘束された場合、まずどうしたらいいのでしょうか。
A. 第一に、虚偽なく知っていることを全て供述し、捜査に協力することが大切です。
刑事訴訟法(CPC2010)第22条2項において、証人は証人自体が刑事告訴、罰金、または没収にさらされる可能性があることを除き、知っている「事件の事実や状況について」真実に沿って述べなければなりません。
また、警察官やシンガポールにおいて捜査を担当する者は、次のような注意書きを読まなければなりません。
「あなたは以下の罪で起訴されました(又は起訴される可能性があります)。」
(罪状)
上記の罪状について、何か言いたいことがあれば、言うべき点に留意が必要です。もしこの段階で事実等について述べずに、裁判で初めて事実等を明らかにした場合、裁判官は信じない可能性があり、裁判で不利になることもあります。すなわち、事実等については予め供述しておくことが推奨されます。供述した内容は書面に記載され、もし間違いがある場合には訂正後に署名することになります。(CPC2010第23条1項、2024年7月現在)。
Q5. なぜ同じ行為でも国によって刑が異なるのでしょうか。
A. ある行為が犯罪とみなされるか、刑罰の対象となるかについては、各国によって判断が異なります。
執行可能性についても法理学の解釈によります。例えば、ある者が刑事事件について陳述法廷で罪を認める供述をしたとします。このような場合、裁判官は裁判に要する時間や費用を抑えることができるので、通常、刑罰が少し軽くなる傾向があります。