今回はITの第6回目で、ソフトウェア開発などと並んで成長を続けるBPOの状況についてまとめます。
BPOは「Business Process Outsourcing」の略で、バック・オフィス・サービス、あるいはIT関連サービス、ITESなどとも呼ばれます。これは収益を上げるコア部門のみを本国内に残し、残りのバックオフィス的な非収益部門(人事・経営企画・総務・経理・顧客サポートなど)をインドなどのIT企業にアウトソースするものです。これにより非収益部門にかかるコストを抑え、企業の収益性を大幅にアップさせるという手法です。通常BPOは、業務の中の一部分だけを委託するものではなく、業務の全工程を一括して外部に委託します。
BPO産業が本格化したのは、IT革命が進行中の90年代末からです。インドのBPO関連輸出は1999年度は5.6億ドルでしたが、2006年度には84億ドルとなりり、この7年間で15倍に拡大しました。この額は、ITサービス輸出全体の27%を占めています。インドからのBPO輸出の9割以上は、米国、英国を中心とした英語圏地域向けで、米国や英国企業の競争力の向上に大きく貢献したと言われています。このため、BPOでは英語は必須のスキルとなっています。
BPOにより、米国とインドとの時差を活用して、例えば米国のスタッフがデータだけを準備し、インドで(米国の)夜通し詳細な計算作業が施され、翌日の朝までに準備ができているといったことが実現しています。ただし、米国の顧客からの電話に答えるインドの従業員にとっては、米国時間に合わせて夜間勤務を行うために、生活時間帯を変更しなければならないという問題点もあります。
インドはグローバルBPO市場の70%を得ており、グルガオン、バンガロール、プネ、ノイダ、ニューデリー、ムンバイ、チェンナイがBPOの中心地となっています。
このインドBPO市場をにらんで、IBM、アクセンチュアやEDSなど、多数の多国籍企業がインドでの事業を拡大させています。一方インドのソフトウェア企業の中からもBPO事業に参入する会社が増えてきており、TCS、インフォシスやウィプロといったインドIT大手は、どこもこの分野に参入しています。現在BPOにかかわる企業は300社程度あります。
インドでBPOが発展してきた理由は、まずそのコストの低さにあります。BPOの場合は、ソフトウェア技術者に比べて必要とされる技術レベルが低くてよく、単に英語能力の素養があればよいという職種もあります。そのためソフトウェア・サービスと異なり、数多くの中位熟練層に雇用の機会を提供することができています。従って賃金水準は、ソフトウェア技術者に比べて低い水準にあります。
BPO関連の雇用者数は、2001年度にはわずか4万人でしたが、04年度には35万人にまで拡大しています。つまりこの3年間で、30万人強の新規雇用を生み出したことになります。
最近ではBPOの分野でも、高付加価値業務へのシフトが進んでおり、4、5年前から欧米のコンサルティング系会社を中心に法人決算業務、特許などの法務、医療関連事務などの業務が増えてきており、会計士、弁理士、弁護士、医師、アナリストなど高度専門職のアウトソーシング業務にまで進化していっています。こうした業務は、KPO(ナレッジ・プロセス・アウトソーシング)とも呼ばれています。
例えばクレジットカード関連サービスにおいては、当初個人顧客のデータ入力や利用申し込みの受付といった業務だけでしたが、次第に個人顧客の信用調査や不正の摘発など、より高度な能力が要求されるサービスへと移行していっています。またメディア業界にもKPOの波が広がってきており、04年には英通信社のロイターが400人体制のデータ管理センターをバンガロールに移設しました。そしてインドで金融リサーチャーの採用・育成を始めています。
マッキンゼーの予測では、インドのBPO産業は、08年にも輸出額240億ドル、雇用者数110万人に達すると予測されています。ただこのまま需要の増加が続くと、2009年時点で約26万人の従業員不足に直面する可能性が高いと見積もられており、業界では地方での人材の育成などに力を入れ始めています。
次回は宗教に移り、ヒンドゥー教におけるシヴァ派とヴィシュヌ派について記します。