2007年9月17日
ダウリー制度(社会5)
今回インドの社会・文化で、ダウリー制度などインドの女性に関する問題について示します。
「幼き時は父に、嫁しては夫に、老いては息子に従うべし。げに女の自立はなしがたし。」これは紀元2世紀までに成立した、ヒンドゥー教徒の行動を規定した「マヌ法典」の一節です。ヒンドゥー教では女性は潜在的に危険な力を有すると信じられており、マヌ法典でも女性は生涯、男に従属すべきだと説かれています。そのため夫を亡くした女性は、社会的に日陰者扱いされていくこととなり、19世紀までサティーという寡婦が夫の遺体とともに生きたまま火葬されるという殉死の風習がありました。
今年、既婚女性のうち37.2%が夫からの暴力を受けたことがあるという政府の調査結果も発表されました。しかし離婚はヒンズー教では禁じられており、基本的にはありません。ただ農村部では、夫と死別したり、何らかの理由で離婚した女性に対して、同じ村の仲介人が再婚相手を紹介するナタという慣習もあります。その慣習では新しい夫になる男性が、女性の前夫や実父に金を払わなければなりません。
その反面インドでは、女性の首相が長期間権力を握り、多くの分野で女性が活躍しています。つい最近大統領に就任したプラティバー・パーティル前ラージャスターン州知事も女性です。その他私がIT技術者など都市部の中間層の人々を見ても、奥さんへの愛情は皆かなりのものです。
一方娘が結婚する時に、親が花婿側へ持参金や家財道具を贈る慣習であるダウリー制度は、今もあります。これは女性の生家側にとっては、非常に大きな経済的な負担となるものです。結婚相手の家に持参金や品物を贈るために、莫大な借金を抱える家庭も少なくありません。また夫の家の要求が結婚後も続くこともあり、女性の生家がこれを拒否すると、花嫁は花婿の家族から冷酷な扱いを受け、死に追いやられる事もあります。夫の生家から要求された額を払うことができず、花嫁やその一家が自殺をするケースも、毎年6~7千件程度発生しています。
ダウリーは花婿の結婚時の職業によってその額が決定されますが、(医学、工学部卒を除く)大学卒業資格をもつ男性の初任給が1万円に満たないインドで、それは25万円以上もの額にのぼります。ダウリーの慣習は、法律に反するにも関わらず、ビハール、ウッター・パラデッシュ、ラジャスターン、そしてハリアナ州といった北方のヒンズー語地域に特に色濃く残っています。1984年と1985年に改正された1961年のダウリー廃止法は、ダウリーを裁判所で扱われるべき、保釈の認められない犯罪とみなし、ダウリーを差し出すことも受け取ることも禁止し、女性を自殺に追い込むような冷酷な行為を罰すると規定しています。
この影響もあり、インドで男女比の不均衡は広がっています。インドでは、過去20年間に1000万人の女の胎児が中絶で死亡したと言われています。0~6歳の男児1000人当たりの女児数は、91年の945人から2001年には927人に減少しています。伝統がより浸透している北西部では同900人、西北部パンジャブ州北部では800人を下回っているという状況です。
2007年に入ってからもインド北部のハリヤナ州パルワルの地裁で、インドで禁じられている胎児の性別検査を行ったとして、超音波検査をした医師と助手が懲役2年、罰金5000ルピーの判決を受けました。しかしこの超音波検査による胎児の性別確認は、特に富裕層の間で広く行われています。またラジャスタン州では、男女比が拡大していることに伴って、男性に未婚の姉妹がいないと結婚相手として不適格として、女性の家族から結婚の申し込みを断られる傾向も高まってきています。これは新郎の家族に未婚の姉妹がいれば、将来新婦の親戚にいる男性との縁組が可能ということで、昨年ラジャスタンのシェカワティ地方で決まった結婚の30%がこのよう交換条件で婚姻が成立したと言われています。
女性の地位向上のためには、このダウリー制度を完全に改めていく必要があります。今年の7月にはシーク教の指導者たちが教徒たちに向かって、贅沢な結婚式などは、平等を教義とするシーク教に適さないとして、しめやかに執り行うよう呼びかけるなどの動きも出てきています。
次回はインド史の6回目、ムスリムのインド支配について示します。
文=土肥克彦(有限会社アイジェイシー)
福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインド・ダスツール社と協業、オフショア・ソフト開発に携わる。
2004年有限会社アイジェイシーを設立、ダスツール社と提携しながら、各種オフショア開発の受託やコンサルティング、ビジネス・サポート等のサービスで日印間のビジネスの架け橋として活躍している。
また、メールマガジン「インドの今を知る! 一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.106(2007年09月17日発行)」に掲載されたものです。