2014年3月3日
ローカル人材の言語運用能力と言語による意思疎通の違い
WIP SG Pte. Ltd. Director 東尾 章司 業種:翻訳・海外調査
翻訳・海外調査を行うWIPジャパン株式会社のシンガポール現地法人、WIP SGのDirectorとして2012年3月に赴任した私は、シンガポールに来て初めて社員の採用活動を経験しました。業務上、翻訳の校正などが可能な高い言語運用能力が必須条件でした。シンガポール人というと基本的に2つ3つの言語を話せるイメージですが、各言語の実際の運用能力はまさに千差万別です。これには、育ってきた家庭環境や受けてきた学校教育などが影響しているようです。特に、会話では全く支障がなくても、読み書きはまた別問題です。例えば中国語に関して、中国語の翻訳・通訳者でもある私の目から見る限り、プロフェッショナルな翻訳を提供できる高い中国語ライティング能力を有するローカル人材をシンガポールで探すことは大変困難と感じました。一方、英語については、もちろん論文試験などの選定プロセスは必要なものの、高いライティング能力を有するローカル人材は豊富であると感じます。中国語と英語のライティング能力にこれだけの差が出るのは、やはりシンガポール政府が推進する教育制度による部分が大きいと思われます。
私は、幸運にも理想の人材と巡り合うことができ、現在共に会社の発展のために奮闘していますが、ローカル社員との間の意思疎通についても、言語間での違いを感じる場面が多々あります。皆さんも、ローカルの方が英語での会話中に別の言語を混ぜたり、あるいは急に英語以外の言語にスイッチしたりする場面に出くわすことが頻繁にあるかと思いますが、これは、自分の身にしみついた言語の中で、その時伝えたい内容を最も適切に表現できる言語を選択しているのだと私は思います。つまり、言語によって自己表現の幅や内容が違うのです。私は、ローカル社員と英語、中国語、日本語で会話をしていますが、それぞれの言語によってお互いの気持ちの通じ合い方が多少異なることに最近気づきました。日本語は私の感情が相手にもっとも伝わりやすい言語、英語はお互いニュートラルな状態で正確な意思疎通ができる言語、そして中国語は相手の隠れた人間性や感情がもっとも出やすい言語だと思います。言語が異なれば引き出せる情報も変わってきます。もちろん、各言語のバイアスについては個人差がありますが、それぞれの場面に適した言語を選択することで、より深いコミュニケーションをとることができると思います。
言語を学ぶことは、相手の文化を学び、尊重するということです。是非、簡単な表現でいいので、シングリッシュや中国語など英語以外の言葉を織り交ぜてローカル社員と話してみてください。その方の意外な一面や今まであなたが知らなかったことが見えてくるかもしれません。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.252(2014年03月03日発行)」に掲載されたものです。