2015年3月2日
最古の公共住宅団地に残る戦争の記憶「ティオンバル防空壕」
戦前から現存する唯一の一般市民用防空壕

イギリス植民地時代に建てられた公共住宅のうち、内部に防空壕が設置された唯一の例として、また、戦前に建てられたものの中で唯一現存する一般市民用の防空壕として、ティオンバル防空壕は非常に重要な史跡です。
しかし、その存在は長く忘れられ、HDBに暮らす人たちの物置として使われていました。その間、壁の一部が取り壊され、蛍光灯が取り付けられるなどの改修が行われてしまったようです。
そうした中で、2003年にモー・ガン・テラスを含む、戦前に建てられた20棟の建物がURA(都市再開発庁)によって保存対象に指定され、保存のあり方が慎重に検討されるようになりました。
シンガポール陥落から70年を迎えた2012年からは、NHBや、ティオンバル・ヘリテージ・ボランティアによるガイドツアーも行われており、普段は閉ざされた内部に入ることができます。
「シンガポールは、この50年であまりに多くのものが変わりました。この防空壕を含むティオンバル地区を保存することで、残された記憶を語り継いでほしい、そしてシンガポールの歴史の移り変わりを多くの人に理解してほしいと願っています」(ケルヴィンさん)
刻々と変化し続けるシンガポールの街並みの中で、73年前の記憶を留めているティオンバル防空壕。戦争を知る世代が年々減りゆくこの国で、その存在はますます貴重なものになっていくことでしょう。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.275(2015年03月02日発行)」に掲載されたものです。
取材・写真:鈴木 雪子