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熱帯綺羅

2015年8月3日

多国籍の現代女性に愛される プラナカンのお家芸ビーズ刺繍

1世紀前のアンティークビーズが息を吹き返す

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左が15世紀にヨーロッパからもたらされた直径0.5mmのアンティークビーズで作られたサンダル。右は現在日本などで生産されている直径2mmほどのビーズで作られたもので仕上がりのイメージも大きく異なる。アンティークの極小ビーズは数が少なく、また扱うのも難しいため教室では大粒のビーズを使うことが多い。

ところが、今から20年ほど前に訪れたマレーシア・マラッカのアンティークショップで、あまりにも美しいプラナカンのビーズ刺繍に出会ったことでビビさんの意識も一変。このような素晴らしい技術を継承できる女性がほとんどいなくなってしまったことに初めて危機感を覚え、本格的にこの伝統工芸を復活させようと決めました。しかし、ビーズ刺繍復活のために不可欠なふたつのものを探すのに苦労します。
ひとつは「師匠」でした。ビーズ刺繍は家庭で母から娘へ代々受け継がれてきた手料理のようなもの。教本などありません。誰かに教えを請おうにも、ビビさんの母親をはじめ、かつてのエキスパートたちの多くが高齢になり視力が衰える中で、刺繍針を持つことをやめてしまっていました。ビビさんはプラナカンコミュニティを回って少しでも針を扱える人を見つけ、見よう見まねで技術を習得していきました。
もうひとつの重要な探し物は主役であるビーズでした。プラナカン文化が栄華を極めていた19世紀から20世紀初頭にかけて愛用されていた極小のガラスビーズのほとんどが既に生産中止になっていたのです。ニョニャ自慢の緻密なビーズ刺繍の復活にこだわるビビさんは、マラッカやペナンのアンティークショップを巡って希少な極小ビーズを少しずつ調達。骨董品として眠っていた1世紀前ものビーズに息を吹き込み、作品を次々と作り上げていきました。
多民族国家で、各民族がそれぞれの独自文化を守る傾向のあるシンガポールですが、ビビさんには「ビーズ刺繍はプラナカン女性だけの文化」という考えはありません。むしろ多民族の特徴を活かし、色々な人たちに技術を教えてプラナカン文化を広めていきたいという思いが強く、ビーズ刺繍教室もスタート。「2008年にプラナカン博物館がオープンしたことも人々のプラナカン文化に対する関心を高めたのだと思います。さまざまな国籍の女性が教室を訪れるようになりました」(ビビさん)。ここで技術を習得した女性の中には、自分の国に戻ってビーズ刺繍を教えている人もいるそうです。
ニョニャたちの間で受け継がれ、一度は廃れかけた伝統工芸が、今や多国籍の女性の中で息づいている様は国際色豊かなシンガポールならではのことでしょう。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.285(2015年08月03日発行)」に掲載されたものです。
取材・写真:安部 真由美

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