2015年10月5日
世界遺産に選ばれた国民の憩いの場 ボタニック・ガーデン
ヘリテージ・ツリー“テンブス(Tembusu)”と、
市民交流の場としてのガーデン
オーチャード寄りにあるタングリンゲートから入ってすぐの芝生に植えられているシンガポール原産の木、テンブス(Tembusu)。横に大きく伸びた枝が特徴のこの木は、シンガポールの5Sドル札の絵柄にもなっており、シンガポール人にとって馴染みの深い木です。樹齢180年を超えるこの木は特別天然記念樹(ヘリテージ・ツリー)に指定されており、1950年代頃までは地元の家族が集まって枝に座り、集合写真を撮るのが習慣だったそうです。ここで撮影した家族写真が飾られた家も多く、若い世代のシンガポール人にとっても自分を可愛がってくれた祖父母を思い出すノスタルジックな木だと言います。
また、その先にあるビクトリア調のバンドスタンドでは当時、週末になるとバンド演奏が繰り広げられていたそうです。その周りでは女性たちによるバザーが開催されたり移動動物園がやって来たりと、市民が集う憩いの場として大きな役割を果たしました。さらにその頃、お見合い結婚をする際、家族同士がパートナーとなる人を連れて来て初めて顔合わせをする“仲立ち”の場としてもボタニック・ガーデンは重要な場所だったそうです。
昔のままのジャングルも、ほぼ手つかずの状態で残されているボタニック・ガーデン。現在も週末には様々な市民向けのイベントが開催され、朝早くから熱心に太極拳を行う人々の姿も見られます。昔も今も、そしてこれからも変わらずシンガポールの憩いの場として存在していくことでしょう。
テンブスの木。5Sドル札にも描かれている。
タングリンゲート脇には世界遺産を記念したプレートが埋め込まれている。
2015年8月7日にはリー・シェンロン首相が訪れ式典が行われた。
現在ではウェディング写真に欠かせないバンドスタンド。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.289(2015年10月05日発行)」に掲載されたものです。
取材・写真:藤江 薫子