2015年6月25日
「東洋のバニラ」パンダンリーフが語るプラナカン文化
ウェディングシーンを彩る甘い香りの意外な効能
香りのよいパンダンリーフは、マレー人の間で昔からポプリに使われてきました。そのポプリはマレー語で“寄せ集めの花”を意味するブンガランパイ(bunga rampai)と呼ばれます」と、プラナカン文化にも精通するレイモンド氏は教えてくれました。かつてプラナカンの家庭では、12日間も続く豪華な結婚式の際に、新婚カップルの寝台の周りにブンガランパイを置いてロマンティックなムードを醸し出したとか。現在でもマレー系ウェディングでは欠かせない幸せの象徴です。
実際にブンガランパイを購入できると聞いて、MRTパヤレバ駅近くの「ゲイランセライ・マーケット」を訪れました。野菜や果物が積まれた活気あるマーケットの片隅に、様々な小瓶が棚に並ぶ薬局とおぼしき店があります。その店先にたくさんの花が入った籠がいくつも置かれていたので「ブンガランパイが買えるのですか?」と尋ねると、店のおばあさんは「ええ、2Sドルからよ」と答えて、その場で作ってくれました。
じょうごの形にしたバナナの葉に細く切ったパンダンリーフを入れ、粉末状の白檀(サンダルウッドパウダー)を手で混ぜ込みます。次に紅花油(サフラワーオイル)、ローズウォーターなどで香りを加え、ジャスミン、インディアンローズ、チャンパカなど色とりどりの花を合わせます。最後にオイルが染み出さないように新聞紙で包んだら完成。むっと立ち上ってくる甘い香りにスパイスが利いた、なんとも南国らしい香りです。
こうした華やかなパンダンリーフの香りには、暑い国での生活に欠かせない驚きの効能があります。それは、ゴキブリ除けになるということ。たまにタクシーに乗ると甘い香りが漂うのもそのためだとか。実際、我が家に置いてみたブンガランパイも効果は抜群でした。食卓に並ぶ料理に彩りと風味を加え、害虫を寄せ付けない魅惑的な香りを放つパンダンリーフ。エアコンもなく、虫除けスプレーなどもなかった時代、プラナカン家庭の優雅な食卓は、パンダンリーフによって大いに助けられていたのでしょう。


この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.282(2015年06月15日発行)」に掲載されたものです。
取材・写真:門前杏里