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シンガポール教育談義

2016年8月1日

第3回 シンガポール公立校への入学という選択

シンガポール在住の日本人家庭が選ぶ子供の学校は、日本人学校とインターナショナルスクールの2つが主流ですが、永住権(PR)を持たない外国人がローカル校に入学することも可能です。外国人向けの制度は変更される頻度が高く、入学が難しくなっているのも事実ですが、ローカル校に入学できないということはありません。今回は、外国人のシンガポール公立校への入学方法の概要について説明します。

 

外国人の公立校入学試験、AEIS
外国人がシンガポールの公立校へ入学するには、シンガポール教育省(MOE)が年2回、9月または10月に実施するAEIS(Admissions Exercise for International Students)、もしくはAEISテストで不合格になった生徒向けに2月または3月に実施するS-AEIS(Supplementary Admissions Exercise for International Students)というテストに必ず合格しなければなりません(日本の小学1年生に相当するPrimary 1は免除。詳細は後述。Primary 6からの入学は不可)。なお、AEISは新学期となる1月の入学を目指し、S-AEISは4~5月からの入学を目指します。試験教科は英語と数学で、Primary 2 / Primary 3(日本の小学2・3年生に相当)の場合、試験時間は英語が60分、数学はPart1が30分、Part2が80分となります。アジア各国の多くの生徒の留学先として人気が高いシンガポールの公立校ですが、外国人がAEIS合格を目指す場合、最低でも数ヵ月間は終日、専用の学校に通うのが普通で、決して簡単なものではありません。

 

このAEISに合格した場合、割り当てられる公立校についてはMOE側が決定するため、学校の希望や、決定後の変更希望を出すことはできません。公立校で空いている枠を埋める形になりますので、自宅から遠い学校になる可能性もあります。また、入学する学年はその子供の学力レベルに合ったものになり、外国人の場合は、母国で在籍するはずの学年よりも下がった学年が割り当てられる可能性が高いと考えておくのが妥当です。

 

義務教育である日本の公立小学校とのギャップ
「公立校=当地にいる義務教育対象年齢の生徒全員に教育を受けさせる義務がある学校」という日本の捉え方をすると、シンガポールの公立校は、その教育水準の高さからギャップを感じるかもしれません。シンガポールは英語が公用語の国ですから、ESL(英語を母語としない人のための英語教育)にあたるクラスはありませんし、例えば、Primary 1で知っておくべきボキャブラリーには、drinkの類似語であるsip(少しずつ飲む)、gulp(ごくごく飲む)、slurp(音を立てて飲む)など、通常の英会話に支障はない外国人の大人でも知らないようなレベルの単語も含まれます。インター校より学費が安いからという安易な気持ちで入学を考えていると、英語のレベルを含めた教育水準、また、教育を信じて力を入れているお国柄に驚くことでしょう。英語力がないまま小学校高学年以上のシンガポールの公立校入学を目指すのは、2、3学年、学年を下げることを覚悟しない限り難しいと考えられます。

 

公立校入学の大きなチャンスはPrimary 1

外国人が公立校の入学を目指す場合、大きなチャンスと考えられるのがPrimary 1への入学です。理由の1つに、前述のAEISを受ける必要がないことが挙げられます。Primary 1の学校の割り当ては、自宅の場所だけから選ばれるのではありません。7つの段階(Phase 1からPhase 3まで)があり、Phase 1から枠を埋めていく形になります。募集の日程もそれぞれで異なり、さらに外国人が申請書を出せるのはPhase 1の募集日から約2ヵ月後の最終段階のPhase 3からです。シンガポール人やPR(永住権)を持つ生徒が、どの公立校に入るかがすべて決定した後に空いている枠を外国人が埋める形になります。MOEのウェブサイト(https://www.moe.gov.sg)で最終Phaseまで空きのある公立校を確認し、その公立校の中から申請したい学校を選び、募集日の指定された時間にその学校へ申請書を提出しに行く必要があります。ただし、申請すればその学校に必ず入学ができるというものではなく、定員次第で入学が許可されない場合もあります。

 

上記の通り、公立校入学が容易ではないことが分かると思いますが、決して入学ができないというものではありません。公立校への入学のシステムを理解し、納得したうえで、準備を行ってください。

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MOEのビル内観

著者プロフィール    岡部 優子(おかべ ゆうこ)
早稲田大学大学院卒。JPモルガン証券を経て、当地学校法人と日本人家庭の架け橋の役目を果たしたいとCulture Connectionを設立。シンガポール留学をメジャーにするのを目標に、人生の中でも大きな決断となる海外の学校選びの仕事に自覚と責任を持ち、信頼を大事にしながらサポートに励んでいる。

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX vol.307(2016年8月1日発行)」に掲載されたものです。

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