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シンガポール教育談義

2016年9月5日

第4回 シンガポールのローカル名門校

日本で人気の名門校というと、小学校から大学まで、エスカレーター式で進学できる一貫校を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかしシンガポールで名門校と呼ばれる学校は、それとは異なります。今回は、シンガポールの名門校についてお伝えします。

 

名門校に入学できるのは成績上位者数パーセントのみ
シンガポールの成績システムは日本の小学校低学年に当たる学年でも、試験の結果で正解率が50%以下だった場合は落第点を意味する「fail」とされてしまい、留年することもあります。このかなり厳しい教育制度の中で、数パーセントの成績上位者のみが名門校(主に中学校以降の学校を指す)へ入学することができます。またそれらの学校を卒業した場合、自身の子供に対し、出身校と提携する小学校部門への入学の権利を優先して得られることも名門校入学の利点の一つです。

 

セカンダリーから6年間の一貫教育を導入
名門校ではIP(Integrated Programmes)と呼ばれる、セカンダリー・スクール(Secondary School、日本の中学校に相当)からジュニア・カレッジ(Junior College、日本の高校2・3年生に相当)までの6年間で一貫教育を行う権利を与えられている場合が多く、中学校卒業の資格を与えるSingapore GCE O-levelの試験が免除されます。エスカレーター式でジュニア・カレッジへ進学が可能であり、学業に強い生徒たちが高校修了資格のSingapore GCE A-levelに向けて、あるいは国際バカロレア(IB)のディプロマを得るために集中できる環境が整っていることから、名門校入学の人気がさらに高まっていると言われています。

 

名門校=欧米の有名大学への準備校
シンガポールが学業に強いと言われる理由は、名門校が「欧米の有名大学への準備校」として確たる地位を築いている部分が大きいと考えられます。例えば、アメリカのアイビーリーグ校(アメリカの名門私立大学8校の総称)やイギリスのオックスフォード大学への入学準備学校とも呼ばれるラッフルズ・インスティテューション(Raffles Institution、RI)、イギリスのオックスフォード・ケンブリッジ大学へ多くの入学者を輩出し、その人数も現在まで300名ほど言われているホワ・チョン・インスティテューション(Hwa Chong Institution、HCI)が学業に強い名門校として知られています。
RI、HCIともにセカンダリー・スクールまでは男子校ですが、RIはラッフルズ・ガールズ・スクール(Raffles Girls’ School – Secondary)と、HCIはナンヤン・ガールズ・ハイスクール(Nanyang Girls’ High School)の生徒と、ジュニア・カレッジで共学になります。他にも、シンガポール・チャイニーズ・ガールズ・スクール(Singapore Chinese Girls’ School)、カソリック教会系列のセント・ジョセフ・インスティテューション(St.Joseph Institution、SJI)、クリスチャン教会系列のアングロ・チャイニーズ・スクール(Anglo-Chinese School、ACS)などの名門校が有名です。
各名門校の特色をみると、例えばRIは卒業生に建国の父、故リー・クアンユー元首相もいますが、政府系の仕事に就く人が多いと言われます。またシンガポール国立大学(NUS)の花形学部とされる法学部、医学部の大部分を同校出身者で占めるとも言われ、トップスクールとして真っ先に名前が挙がる学校です。

 

HCIは東南アジアで初めてシンガポールを含む海外在住の中国人(華僑)生徒へ教育を提供するために開校された学校です。そのため、華僑ネットワーク・ビジネスに強いというイメージを持つ方も多いですが、若い世代には学業に強いという印象のほうが浸透しているようです。
IPでIBの選択が可能で、スコアの平均点が高いことで有名なACSは、比較的裕福な家庭の子女が通う学校、また、ビジネスやスポーツに強いというイメージが強いようです。

 

外国人の名門校への入学
シンガポール人にとっても入学が難しい名門校に、外国人が入学するには相当な学力が必要です。また公立校であればシンガポール人に入学の優先権があるため、外国人の入学は当然難しいと言えるでしょう。代わりに、外国人には主に海外から帰国したシンガポール人生徒の受け皿として、各名門校が設立したローカル・インターナショナルスクールへの門戸が開かれています。ACSインターナショナル(ACSのグループ校)、ホワ・チョン・インターナショナルスクール(HCIのグループ校)、SJIインターナショナルスクール(SJIのグループ校)の3校があり、生徒はシンガポール人が50%、外国人が50%という構成で運営されています。

 

名門校にはシンガポールや海外の有名大学に入学するための土壌があるほか、人的ネットワークができること、履歴書で目を引くことなどから、将来の成功を目指すコミュニティへの参加が容易になると考えられていることも人気を支えている理由でしょう。

著者プロフィール    岡部 優子(おかべ ゆうこ)
早稲田大学大学院卒。JPモルガン証券を経て、当地学校法人と日本人家庭の架け橋の役目を果たしたいとCulture Connectionを設立。シンガポール留学をメジャーにするのを目標に、人生の中でも大きな決断となる海外の学校選びの仕事に自覚と責任を持ち、信頼を大事にしながらサポートに励んでいる。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX vol.309(2016年9月5日発行)」に掲載されたものです。

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