2016年10月5日
第5回 留学先としてのシンガポール
ゆとり教育を脱却し生きる力を育むため、新たな学習方法を探っている日本。長期で留学する学生は依然として少なく、また留学している学生のほとんどが大学生というのが現状です。一方のシンガポールでは小学生の時期から外国人生徒を留学生として受け入れており、そのためアジア諸国から多くの生徒が来星して学んでいます。今回は、留学先としてのシンガポールについて説明します。
シンガポールの留学先としての魅力
シンガポールが留学先として人気がある大きな理由の1つに、シンガポールでの就職が可能になる就労ビザ(Employment Pass)を取得して当地で働こうと考えるアジア諸国の生徒が多いことが挙げられます。しかしながら、近年外国人に対しての就労ビザ条件が厳しくなっており、これを理由に、特に大学を主とした留学先としてのシンガポールの人気は低下するだろう、という意見も多く聞かれます。それでも、教育水準の高さから公立校を筆頭にして留学先としてシンガポールを目指す外国人はまだ多く、人気が高いのも事実です。
留学先として人気の公立校
シンガポールの公立校は教育水準が高いほか、学費はインターナショナルスクールに比べて安く、学生ビザ(Student Pass)と、女性の保護者(母親・祖母)に対するビザ(Long Term Visit Pass)が下りることもあり、アジア諸国では留学先として人気があります。シンガポールでは留学生に学生ビザを発行できますが、公立校入学資格はAEIS(Admissions Exercise for International Students)という試験に合格した生徒にのみ与えられるため、この試験に合格しない限り学生ビザを持っていても公立校に入学することはできません。また留学希望者は自国で勉強する代わりにシンガポールの公立校を目指すための準備学校(Preparatory School)へ入学し、半年ほど終日で勉強しAEIS試験を目指すケースも多く見られます。このような準備学校や英語学校に入学する場合でも学生ビザは下りますが、この場合、女性保護者へのビザ(Long Term Visit Pass)は下りません。
近年はAEISの合格自体が難しくなっているほか、ビザを持たない外国人よりは合格しやすいと言われる帯同家族ビザ(Dependent Pass)を保有する外国人生徒でも合格が難しくなっていると言われています。留学したい外国人に対しては特に、シンガポール公立校入学の難度が上がっているようです。
このAEISに合格できず、学費が高額なインターナショナルスクールへの入学に切り替える留学希望の生徒も増えてきていると言われ、公立校は教育水準が高いうえ安価、ということだけで選択できるものではないということが伺えます。
生年月日で学年を決定したい日本人
外国人が公立校に入学する場合、生年月日で入学学年が決まるのではなく、AEISの結果、つまりその子の学力によって学年が決まります。シンガポールでは幼い年齢から高い水準の学力を求められ、PSLE(小学校の卒業試験)やO-Level(中学校の卒業試験)のような全国統一試験の結果によって入学校が決まるシステムのため、外国人も学力をベースにした学年に入学するということは理にかなっていると言えるでしょう。
外国人を受け入れるインターナショナルスクールでは、生年月日により所属学年を決める学校と、英語力の有無などで学年を下げることを許容する学校があります。英語を母国語としない日本人以外の外国人生徒が、抵抗なく学年を下げて入学することを決めるのに比べ、生年月日により所属学年がはっきりと決まり、成績に関係なく自動的に次学年へ進むことに慣れている日本人にとっては、1年であっても学年を下げることへの心理的な抵抗は大きいようです。
慣れ親しんだ教育システムから離れるのは簡単なことではありません。外国人にも高い教育水準を当たり前に求めるシンガポールで、日本人留学生が増えていくにはまだ壁がありそうですが、アジア諸国から留学先として人気があるシンガポールの魅力が、少しでも多くの日本人の方に伝わることを期待しています。
著者プロフィール 岡部 優子(おかべ ゆうこ)
早稲田大学大学院卒。JPモルガン証券を経て、当地学校法人と日本人家庭の架け橋の役目を果たしたいとCulture Connectionを設立。シンガポール留学をメジャーにするのを目標に、人生の中でも大きな決断となる海外の学校選びの仕事に自覚と責任を持ち、信頼を大事にしながらサポートに励んでいる。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX vol.311(2016年10月3日発行)」に掲載されたものです。