2018年5月24日
ホウガン
ゲイランの北、セラングーンの東に位置するホウガンは、中国語が幅を利かせるローカル色の強いエリア。日本人にはどちらかというとなじみが薄いが、総選挙のたびに注目を集め、政治に大きな影響をおよぼす地区だ。
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シンガポールの潮州タウン
ホウガンは、広大な森に養豚場が点在するだけであったところに、1979年より政府のニュータウン計画が始まり、現在の姿になった。その際、付近に多く暮らしていた潮州系華僑の人々がホウガンに建ったHDBへの移住を促されたため、今日もホウガンには潮州系住民が多い。現在MRTコヴァン駅のある辺りは、かつてTeochew Villageと呼ばれ、屋台が立ち、ワヤンという劇が上演され、人々が集う場所であった。その名残で今も駅の四方はびっしりと飲食店が立ち並んでいるが、特に潮州系の店が多く、さまざまな種類のものが食べられる。
野党選出の伝統
与党人民行動党(PAP)が圧倒的に強いシンガポールにおいて、ホウガンエリア内の選挙区Hougang SMCは、1991年の総選挙以降、現在に至るまで野党労働者党(WP)のメンバーが国会議員を務める地区である。2011年には隣接する選挙区Aljunied GRCもWPの議員を選出した。それ以来、国内でこの2区のみが野党議員地区となっている。口さがなく「政府のサポートが少ないホウガン地区のHDBはみすぼらしい」という人もいるが、実際のところ、HDBはどこもきれいに管理・補修されており、清掃も行き届き、街並みは他のところと変わりがない。
ホウガン名物!?潮州料理
ホウガンに多い潮州料理のお店。こってりしたイメージの中華料理には珍しく、素材の味を生かし、あっさりとやさしい味付けが特徴の潮州料理は、油っこいという理由で中華が苦手な人も試す価値あり。その一部を紹介しよう。
潮州粥:台湾や香港のお粥とはまったくの別物!
味をつけずさっと煮込みサラサラとさっぱりしたお粥を、カウンターに並ぶ中から選んだおかずと一緒に食べる。おかずの種類は店によるが、薄味のお粥と食べるために味付けが濃いめのところが多い。
Soon Soon Teochew Porridge Restaurantは品数豊富でどれも美味しそうなため、ついたくさん頼みそうになってしまうキケンな店。
潮州フィッシュスープ:素材が命のあっさりスープ
茹でたグローパー(ハタ)、バタン(サワラ)、ポンフレット(シマガツオ)などの魚の切り身を浮かべたあっさりとしたスープ。
First Street Teochew Fish Soupはランチ時間には行列のできる有名店。魚類は新鮮なおかげかプリプリとして美味。スープそのものの味つけは薄めで、チリ醤油や塩漬け大豆のソースで自分好みの味にしていただく。
潮州クエ:甘くないセイヴォリー的クエ
「クエ」と聞いて一般的に思い浮かぶ甘い菓子と違い、潮州クエはタケノコやカブ、ニラなどの野菜を調理したものを、米粉で作った薄皮で包んだ「セイヴォリー」的なものが主。味付けはやや控えめで、好みで中華醤油やチリソースなどをかけて食べる。
Yong’s Teochew Kuehは島内に数店舗を展開する人気の店。タケノコ、キャベツ、ニラなどのクエの他、タピオカやヤム芋から作られたスウィーツも売っている。どれも主張し過ぎずあっさりしたところがクセになる味。
ホウガンに眠る先人「日本人墓地公園」
明治24年、ホウガンに、日本人のための墓地が有志により造られ、現在も「日本人墓地公園」として管理されている。ここには19世紀末から20世紀半ばまでの在住者の墓や、日本人社会に貢献した人の記念碑、そして太平洋戦争の戦没者慰霊碑などがある。中には、漂流民となったのち、イギリス上陸、上海在住、シンガポール在住を日本人として初めて経験した山本音吉、マレー人を率いた盗賊団を結成、のちに日本軍の諜報員となり、「ハリマオ」の別称でドラマの題材になった谷豊など、有名な人たちの納骨堂や記念碑もある。しかし、無名の人々の慰霊碑や墓にも劇的な人生が眠っていることは想像に難くない。
写真・取材:パーソン 珠美