昨年、日本の元号が令和に変わり、新しい時代が始まりました。ナショナリズムの大きなうねりと所得格差の拡大に、世界中が翻弄されています。世界情勢は劇的に変化。中国の台頭。イギリスは下院議員選挙で与党保守党が勝利、いよいよイギリス抜きのEUも新しい歩みを始めました。
さらに、生命科学やAIなどの科学技術の急速な発展は、人間社会の枠組みを根本的に変えようとしています。また、環境問題、貧困問題、食料問題は深刻さを増し、地球規模での解決が急がれています。変化のスピードが恐ろしく速く、教育の世界でも、10~20年ほど前に高校・大学で学習したテキストの内容が陳腐化する事態が起こっています。従来から世界各国で行われてきた知識とスキル獲得中心の教育では、変化の時代への対応が難しくなってきており、新しい教育のかたちが望まれています。
『2030年に向けた学習枠組み』に沿った学習指導要領に大改訂
OECD(経済協力開発機構)は、2015年に「変化の時代に対応できる新しい教育の指針」を作成するため、OECD Education 2030プロジェクトを開始し、『2030年に向けた学習の枠組み』(Learning Framework 2030)を発表しました。
※「OECD Education 2030 プロジェクトについて」(文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室)
日本の文部科学省もこの学習の枠組みに沿った学習指導要領の大幅な改訂を行い、2020年度から本格実施することになっています。下記のような共通ビジョンに従い、社会の急激な変化に対応する教育を目指します。
○地球規模の環境問題や貧困、資源等に対応する地球市民の育成。
○生命科学の急速な発展による人間の長寿化と社会変化に対応できる教育。
○AIとうまく共存できる地球市民育成を可能にする教育。
○想定できない事態や急激な社会変化に対応できるコンピテンシー(行動特性)育成を可能にする教育。
急激な社会変化に対応する新しい学力観と学びの「ありよう」の変革
学力の3要素
社会と目指す教育が変われば、おのずと学力観も変わってきます。変化の時代にはハイブリッドな感性とコンピテンシーが必須になります。行われるべき学びは下記の3つの要素に定義・分類されます。
1. 知識・スキル
2. 思考力・判断力・表現力 + 創造性
3. 主体性・多様性・協働性
如何に学ぶか?
そして、学びの「ありよう」も大きく変化します。教師による一方方向で、単一の正解への到達方法に関する講義からの脱却が各科目で目指されます。今後の学びは次の3点を軸に、学びの「ありよう」が試行錯誤されると思われます。
1. 主体的な学び
2. 対話的な学び
3. 深い学び
新しい学び
本年から高校1~2年次に、従来とは異なる新しい科目である探究科目(『好きこそものの上手なれ』が生かせる科目)が導入されます。
探究科目は今回の新学習指導要領の目玉の一つです。「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」の「3つの学び」すべてを総動員し、リサーチに用いる手法を駆使して活動します。インターネットを使った調査から、大学、研究所、企業訪問、科目によっては仮説・実験を行い、最終的にはレポートを作成します。大学専門課程で必須となる課題設定・問題意識とリサーチスキルを鍛える貴重な機会となります。『総合的な探究』は必修科目ですが、その他の6科目は選択科目。自分の好きな分野、得意な分野、あるいは大学で専攻したい分野の探究ができる科目を履修できます。
◎総合的な探究 (必修)
○理数探究基礎 (選択)
○理数探究 (選択)
○世界史探究 (選択)
○日本史探究 (選択)
○地理探究 (選択)
○古典探究 (選択)
これまでの高校生は、入試のための勉強=解答技術のトレーニングに集中し、3つの学びを積極的に行ってきませんでした。本年以降は探究科目を積極的に履修し、後述する大学のAO枠を組み合わせることで、大学入試というハードルを超えなくても様々な得意分野を生かし、自分の専攻を見つけ志望学科に入学しやすくなります。
本年度から開始される大学入学共通テストにも、上記の探究科目が選択科目として採用される予定です。
著:後藤敏夫(ごとう・としお)
WCEグループCEO
World Creative Education Pte Ltd
グローバル教育コンサルタント
Orbit Academic Centre グローバル型進学教室
シンガポール在住。1990年に海外型進学塾「オービットアカデミックセンター」を香港にて設立。日本の学校への進学指導だけでなく、国際バカロレア(IB)などの国際カリキュラムを履修した生徒たちの海外大学進学や国際併願を数多く指導する。30年間一貫して、中学・高等学校や大学のグローバル化を積極的に支援。グローバル教育の最新情報や今後の教育の方向を発信している。