2020年7月10日
文理融合系学部とは?文理分断からの脱却
シンガポールと日本の教育事情:日本編
近年、日本の大学では「文理融合」という言葉が大きく取り上げられています。「文理融合」とは、従来の大学教育の現場で一般的に使用されていた「文系・理系」という学問的区分にとらわれず、領域横断的な知識力と発想力を学生に習得させようとする教育方針のことです。現代社会で起こっている複合的な課題に対して、「柔軟な発想力と様々な分野の専門知識をもって解決に臨める人材」を育成する新しい高等専門教育が期待されているのです。こうした時代の要請に応え、日本の大学にも、文理融合型カリキュラムを導入した新しい学部(学科)が創成されています。
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文理融合を選択した九州大学共創学部
文理融合系の一つの選択肢は融合理工系学部(※)と言われるカテゴリーの学部です。代表的なものは九州大学の共創学部。2018年4月に約50年ぶりに創設された新学部です。この学部は、〇〇学▲▲専攻というように、研究対象を演繹的に学問分野として学習・研究するだけではなく、文系・理系の枠を超えて、環境問題、宗教・民族対立や生命倫理という「地球規模の課題解決に取り組む知識とスキル・能動的態度」を学び、総合的に問題解決策を構想できるイノベーションを担う人材育成を目的とします。また1学年定員105名という総合大学としてはきわめて少人数で、贅沢な教育課程が運営されています。
※その他代表的な融合理工系学部:東京工業大学 融合理工学系、広島大学 総合科学部国際共創学科
ユニークかつ画期的なカリキュラムポリシー
今回は、九州大学共創学部の学生が4年間で学んでいくカリキュラムポリシーを紹介します。その内容から文理融合の学びがイメージできると思います。
〈1~3年次〉
1. 縦割りの学問体系のみだけでなく、科目横断的な分野の履修が必須となっています。(タテヨコ双方の分野の学習を並行して行う画期的な学部です。)
2. リサーチ手法の徹底的な習得を行います。
3. 課題協働科目:学習目的や専攻の異なる学生が、グループ学習(協働)を行う科目。ここでは、知的刺激や課題解決の新しいアプローチが期待されます。
4. 集中的なアカデミック英語の学習と、「英語による専門科目」への参加。
5. 海外提携大学への留学は全員必修(1か月~1年間:26か国114大学)。共創学部では、提携先大学における科目履修が必修になるので、2年次までに一定以上の英語力が必須になります。
〈4年次〉
自らが学んだ複数の学問分野の高度な知識や技能を組み合わせ、課題の解決法をリサーチして発表します(英語)。
学生が履修できる基礎科目と横断科目例
共創学部の学生は、意味合いの異なる3種類の科目+海外提携大学の科目+課題研究を履修。さまざまな学際的な基礎教養と新しい発想を身に着け、地球規模の課題解決に向かうことが期待されます。
共通基礎科目
・共創デザイン思考発想法
・複雑系科学入門
・フィールド調査法
・グローバル・ヒストリー…等
学生が勉強できる4つのエリア(学問領域)
テーマ・対象となる課題 | 対応する学問 | |
人間・生命エリア | 生物の発生・進化や人間の思考・認知・判断の仕組み…等 | 生物学・認知科学・脳科学…等 |
人と社会エリア | 意思疎通と言語の仕組み、先史社会、多文化共生、福祉、宗教観…等 | 社会学、文化人類学、コミュニケーション学…等 |
国家と地域エリア | 国家や地域の歴史、特徴的な経済・社会現象、政治と経済の関連性…等 | 政治学、経済学、歴史学…等 |
地球・環境エリア | 地球資源や、地球環境の変化による災害、生命が環境に与える影響…等 | 地球惑星科学、社会・安全システム科学、生物学…等 |
エリア基礎科目
・遺伝学と進化
・分子細胞生物学
・脳情報学
・社会共生論
・言語コミュニケーション論
・地域研究基礎論
・政治経済基礎論
・自然環境と社会
・自然災害・資源
・地球環境実習…等
エリア横断科目
・デザイン思考プログラミング演習
・ビッグデータ処理
・実データ解析技法
・複雑系社会論
・物理学史と哲学
・量子現象科学論…等。
※参考「共創学部 専攻教育科目カリキュラムマップ」(PDF)
著:後藤敏夫(ごとう・としお)
WCEグループCEO
World Creative Education Pte Ltd
グローバル教育コンサルタント
Orbit Academic Centre グローバル型進学教室
シンガポール在住。1990年に海外型進学塾「オービットアカデミックセンター」を香港にて設立。日本の学校への進学指導だけでなく、国際バカロレア(IB)などの国際カリキュラムを履修した生徒たちの海外大学進学や国際併願を数多く指導する。30年間一貫して、中学・高等学校や大学のグローバル化を積極的に支援。グローバル教育の最新情報や今後の教育の方向を発信している。