今回紹介する「剣客太平記」は新シリーズ第一弾。亡き父の剣術の才能を受け継ぐ竜蔵は、道場を構えたものの門弟は一人もおらず、喧嘩の仲裁で糊口をしのぐ日々。
竜蔵の剛健ながら人情味あふれる人柄に、不器用な優しさに、心打たれること間違いない。著者の巧みな物語構成・展開は読む者のツボをおさえており、『お見事』と賞する他ないだろう。
三篇収録されている中で特に「夫婦敵討ち」における人物描写のうまさが冴えている。殺された兄の敵を討ちたいという男に、ひょんなことから剣術指南をすることになる。その中で描かれる愚直な男の想いにひきこまれた。
今後の展開が楽しみな作品がまた一つできたことを嬉しく思える。お見事な一冊!
角川春樹事務所/ISBN:9784758435901