そこでヴィクトリア女王時代に開館した、ラッフルズ博物館以来の貴重な文化財をご覧になられた方は多いかと思います。
これらの文化財はシンガポールが日本軍の占領により昭南島と名を変えていた時代、戦争の混乱の下で離散、椋奪の危機に瀕していました。
本書の舞台は、そんな時代のシンガポールの博物館と植物園。
そこでは敵味方を越えて、文化財の保護、保存、収集または研究に努める日英の人たちの姿がありました。不信と敵意と燃える戦火の中で、国家のためでも勝敗のためでもなく、ただヒューマニティのために共に戦う科学者たちの熱い人間ドラマが展開されていたのです。
著者は1945年に帰国するまでの16年間をシンガポール植物園の副園長として奉職した英国人科学者。本書では徳川義親侯爵、田中館教授という傑出した人物と共に働いた3年半の博物館での日々を当時のシンガポールの様子を交えて回想しています。
戦後も終生絶えることのなかった彼らの友情に、科学には国境がないことをつくづく思い知らされます。
中央公論新社